第10章 ことば
「おーい松岡!」
放課後の部活が終わり、ベンチでドリンクを飲んでいた凛に二人組の2年生部員が声をかけた。
「なんだ?」
彼らが声をかけてくるなんて珍しかったから、凛は用件を切り出すよう視線を投げかけた。
年相応で楽しそうな笑み...若干にやけが混ざった笑顔で一人が切り出した。
「松岡、お前スピラノの汐ちゃんと付き合ってんのか?」
「は?」
「俺たちは見たんだぞ、一昨日の8時過ぎくらいに公園で汐ちゃんと2人でいるとこ!」
「...別に、お前らが期待してるような関係じゃねえよ」
カップル疑惑をかけられたことよりも、この二人が汐のことを馴れ馴れしく〝汐ちゃん〟と呼んでいることの方がひっかかかった。
「ほんとか?ならなんで2人でいたんだよ?」
「たまたま会ってジュース奢ってもらっただけだ」
ジュースを奢ってもらっただけなのは本当。
けどたまたまというのは嘘だった。
ここ2週間くらいは週に1回ほどのペースで待ち合わせをしていた。
けれどバカ正直にそんなことを言うとまたしつこく追求されるだろうから凛は黙っていた。
「正直に言え、松岡と汐ちゃんはどんな関係なんだよ?」
「鮫柄の選手とスピラノのマネージャー」
「それは俺たちも一緒だろ。そうじゃなくて」
(めんどくせぇな...)
だんだんと面倒くさくなってきた凛は若干投げやりな答え方をした。
「ケータイを落とした人とそれを拾った人、単なるダチ。これでいいか?」
「そうか、汐ちゃんとは友達かー」
「お前ら汐の前でもあいつのこと汐ちゃんって呼ぶのか?」
さっきから汐ちゃん、汐ちゃんと馴れ馴れしく呼ぶのがすごく引っかかる。
それに対抗して凛も汐のことを呼び捨てで呼んでみた。
こんなことしてもどうしようもないとはわかってても変な対抗心がわいてしまった。
「まさか...!てかそもそも会話する機会がない」
「...そうか」
それもそうかと凛は納得した。自分は会ってるから話すけれどほかの人は合同練習などをしない限り汐にあう機会はほとんどない。
「でもよかったなー!松岡は汐ちゃんと付き合ってないってよ!」
冷やかすような笑顔を浮かべて隣の部員を小突いた。
(よかった...?)
凛のまゆが動いた。視線を二人に戻した。