第10章 ことば
「....〝まろやか練乳仕立てフルーツオレ〟....?」
名前からして超がつくほど甘そうな飲み物だった。
名前を読み上げながらしかめっ面をする凛とは対照的に、にこにこと幸せそうな笑顔で汐は缶を開けた。
ペキッという音のあとに微かにフルーツオレのような匂いがした。
「そう!あたし牛乳好きなんだー。美味しいよ!」
どう考えてもこれは牛乳じゃねぇだろ、というツッコミをしようか否か凛は迷ったがあえてしないことにした。
「そうか、それはよかったな」
「うんー。松岡くんも一口飲んでみる?」
「はっ...?いや、俺は...」
俺はいい、と言おうとしたが途中で詰まってしまった。
汐がすごい笑顔で勧めてくるものだ。
きっと美味しいに違いないだろうと思った。
それにせっかく勧めてくれたのに断るのはちょっと汐に悪いと思ってしまった。
「....もらう」
罪悪感のような、なんとも言えない感情に負けて甘いとわかりきっているものを一口もらってしまった。
「どうぞー」
満足そうな笑顔で缶を差し出す汐を視界の隅に置き、缶に唇をつけた。
缶を傾け一口飲んだ。口の中に広がるまろやか練乳仕立てフルーツオレの味...
「あっ....ま!何だこれ砂糖じゃねぇか」
「...もしかして松岡くん甘いもの苦手?」
汐にフルーツオレを返し、自分のスポーツドリンクを勢いよく口の中に流し込んだ。
「あんま好きじゃねえ」
口の中に残るフルーツオレの甘さ。
思わず眉間にシワがよる。それに対して汐は楽しそうに笑っていた。
「なら先に言ってくれればよかったのに」
「...お前なあ...」
確かにそのとおりだけど勧めておいてそれはないだろ...と凛は思った。
やれやれ、とため息をついて汐を見た。
と、凛に視線を戻した汐と視線がぶつかった。
「どうしたの?」
「なんでもねぇ」
視線がぶつかった瞬間、汐は微笑んだ。
胸がざわついた。ぱっと汐から視線を外しそっけなく答える。
凛自身自覚していた。
汐といるときが一番心が凪いでいると。
心を渦巻く負の感情も、汐と話してる間は忘れることができた。
無意識のうちに、部活後汐と会って話すことは凛の密かな楽しみになっていった。
この感情を、なんと言葉で表現したらいいだろうか。