第9章 縛る存在
やがて汐は放心したかのように目を覚ました。
起きたら凛の姿はなかった。
窓からさす光はオレンジ色で時間の経過を実感した。
体温計がなった。37,5℃。
普通の人からすると微熱に入るが、平熱が36,8℃前後と高い汐からすれば許容範囲内である。
ベッドから降りて部屋をでた。階下に灯りがついている。
汐は階段を降りてリビングの扉を開けた。
すると汐の母がキッチンで夕飯の支度をしていた。
「お母さん帰ってたんだ。今日はやいんだね」
「うん。けどわたし、はやく帰ってこない方がよかった?」
「え?なんで?」
きょとんとする汐とは対照的に、汐の母は嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「彼、松岡凛くんって言うんだね。汐、いつの間にあんなに背が高くて超イケメンな彼氏できたの?」
「なっ....!」
汐の顔がかあっと熱くなった。すぐさま否定の言葉を口にする。
「松岡くんは友達っ....!!」
真っ赤な顔で否定する汐に母は笑顔を絶やすことなく続けた。
「彼も同じこと言ってた。仲いいのね」
「っ....!」
こんなに照れてる汐初めて見た、と母は楽しそうに笑う。
そしてテーブルの上に置いてあるコンビニの袋を指さした。
「汐に差し入れだって」
「松岡くんから?」
そう言って汐はコンビニの袋を手にとり中を見た。
汐の胸が大きくはねた。
「ね、汐。本当に彼、汐の彼氏じゃないの?」
「彼氏じゃないよ」
「やっぱりそこは違うのね」
「うん。でも....」
「ん?」
もう一度コンビニの袋の中身を見た。
頬が緩む。胸がきゅっと締め付けられて、けれどふわふわ暖かくなった。
この感じは初めてではない。けれどこんな感情は初めてだった。
今まで汐が理解出来ず、手探りで探し続けていたこの感情の答えがやっとわかった。
でも、の後汐が言ったことは母には聞こえなかったらしい。
言葉の続きを母は促したが、なんでもないよと微笑みコンビニの袋を持って汐は自室へ戻った。
自室に戻った汐は電気をつけ、机の上においてあったケータイを手に取りベッドに身を預けた。
電話帳の画面を開く。
一番上に表示された名前のもとへ電話をかけた。
2回のコール音の後に電話がつながった。
出たのは璃保だった。