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Emotional Reliable

第9章 縛る存在


「うみちゃん!?」
「海子!!!」
海子は汐を助けるためにプールへ飛び込んでいってしまった。
海子も璃保も佳波もまだ10代そこそこだ。水難事故の対応など習ったことがない。
海子が脱ぎ捨てていったジャージに目を落とした。
白かったジャージが赤く汚れている。
海子はかなり大きな怪我をしている。

「...先生のとこいって救急車呼んでくる...!」
そう言って佳波は自分たちが来た道を走り出した。



汐は身を切るように冷たい、水と言う名の闇にいた。
地震が起こる直前、海子に言われたことが頭の中でわんわんと反響する。
危ないから水に近づいちゃダメ。海子はそう言った。
実は同じことをここに来る前にいろんな人に言われた。


(どうしてあたしは言われたことを守れなかったんだろう)

水に呑まれながら後悔した。身動きひとつ取らずに沈んでいく。
水面に上がろうとして、抗えば抗うほど水は身体にまとわりつき自由を奪った。
最早汐には水に抗う体力は残されていない。
まるで水の中にいる魔物にじわじわと足を引っ張られている気分だと、汐は妙に冷静に思ってしまった。
人間生きるか死ぬかの場面に直面すると冷静になるというが、まさにその通りだった。


(あたし、このまま死んじゃうのかな...)

半ば諦めに近い思いと共に汐の唇から泡が漏れた。
酸素が恋しい。唇からさらに泡が漏れた。
苦しい、助けて。薄れゆく意識の中、汐は目を開いた。

すると自分の方へ向かってくる影に気づいた。
初めは気のせいだと思った。けれどその影はだんだんと近づいてくる。
汐は目を見開いた。
自分の元へ向かってきたのは海子だった。

手を掴まれ、ぐっと肩を寄せられた。
そしてそのまま水面へ浮上していく。
だんだんと薄い光に近づいていく。


「海子!!汐!!!」
二人は水面から顔をだした。プールサイドにいた璃保が駆け寄ってきた。

酸素を肺いっぱいに吸いこみ、自分は助かったのだと自覚した。
それと同時に自分の周りの水が妙に赤いことに気づいた。
自分は怪我などしていない。ということは…

「汐…無事でよかった…」
「海子…」
言葉が出ず汐はただ海子を見つめた。
青白い顔をした海子が心なしか笑った気がした。掴まれた肩に一瞬だけ力が込められた気もした。
なぜだかとても、心が痛い。朦朧とする意識の中、汐はそう感じた。
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