第9章 縛る存在
ガタガタと大きく揺れる。
今まで経験したことないような揺れだった。
じっと揺れが収まるまで耐えた。恐怖で体がすくむ。悲鳴を上げてしまいそうだったが、必死にこらえた。
しかし老朽化した用具たちは悲鳴をあげずにはいられなかった。
「うみちゃん!!危ない!!!」
佳波の悲鳴にも似た叫び声をきいた。海子は顔をあげた。
眼前には揺れに耐えれず崩壊したスレンレスの用具。
海子は思わずギュッと目を閉じた。
やがて揺れは収まった。
海子はお腹や肩がじんわりと生あたたかいことに気づいた。
手で触れてみた。見ると真っ赤な自分の血で染まっていた。
途端に激しい痛みに襲われる。
「みんな、無事...?璃保...?うみちゃん...?みーこ...?」
佳波がゆっくりと顔をあげた。その顔や体には目立った傷はない。
発せられた声は泣きそうなものだった。
「大丈夫です...」
初めに声をあげたのは璃保だった。怪我もなく大丈夫そうだ。
「なんとか...」
次に声を上げたのは海子だった。肩とお腹の傷が痛む。
なんとか大丈夫、と言ったが明らかに大丈夫ではない。
「海子...!大丈夫...!?」
「わたしはだいじょうぶ...」
璃保はひきつった声をあげた。
今まで味わったことのない激痛だった。
かなり出血をしてはいるが意識ははっきりとしている。
残るはあと一人...
「...ねえ、みーこは...?」
佳波がうわずった声をあげた。
璃保と海子は辺りを見回した。
汐の姿がどこにも見えない。
心臓がどくどくと騒ぎ出した。
地震が起こる直前、汐はどこにいただろうか。
海子は全身の血が冷たくなる感覚に襲われた。
汐は地震が起こる直前、プールのすぐそばにいた。
水深が何メートルあるのかわからないシンクロ用のプール。
海子は飛びつくようにプールをのぞき込んだ。
1箇所だけ他よりもかなり大きな波紋を広げている水面がある。
暗くて良く見えないが水の中に揺らめく樺色の髪が見えた気がした。
「ね....もしかして汐、プールに落ちたんじゃ...」
璃保が震えた声をあげた。
それは状況から考えても否定できない事実だった。
海子はおもむろに血で染まった白いジャージをぬぎすてた。
「ちょ....海子、なにして....」
「決まってる」
そして身を切るほど冷たいプールへ飛び込んだ。
汐を、助けるために。