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Emotional Reliable

第9章 縛る存在



「ううっ...さっむー...」
「ほんと、室内だからちょっとマシかと思ったけど、そうでもないね」
吐く息が白くなる。時は1月末。外では雪が降っていた。海子も汐も思わずジャージのファスナーを上まで閉めた。

「そりゃ使ってないプールだもん、ボイラーついてないよ」
「そうそう。何年も前に使わなくなったプールに使えそうなものなんてあるかっての」

この日、海子と汐と璃保と1つ先輩のマネージャー―佐田佳波は雑用を任された。内容は取り壊しになるシンクロ用プールにあるまだ使えそうな用具をとってくる、というものだった。

何年も前に使われなくなったといっても、建物内
はほぼ当時のままといっても過言ではないくらい綺麗だった。
しかし用具は老朽化が進んでいて、先ほど海子が椅子にぶつかった際にその椅子は簡単に壊れてしまった。

「薄暗いね...」
「なに、汐怖いの?」
「みんないるから怖くないよ」
「またまたそーいって、実は怖いんでしょ」
「こら、うみちゃんみーこをいじめないの」
「はあーい」
先輩である佳波が海子をたしなめる。海子はうみちゃん、汐はみーこと呼ばれていた。
入部した時、二人の顔が似ていたため佳波がつけたあだ名だった。
それ以来、海子と汐と璃保を除く部員はこのあだ名で呼んでいる。


やがて4人はプールのある場所へ出た。
先ほどの通路や更衣室とは比べ物にならないほど空気が冷たかった。
吐息の白さはより一層密度を増したように思えた。

「きれい...」
汐は惚けたように呟いた。
ステンドクラスから月の光が差し込み、水面に乱反射している。
水は凪いでいた。

「つか、なんで使ってないプールに水が張ってあって、しかもなんでこんなに綺麗なの...」
寒さに耐えられない、と言った様子で海子はぼやいた。

「貯水槽も兼ねてるんだって」
「それに加えてうちらが使ってるプールと同じ浄水層らしいからこっちの水も綺麗なんだって」
白い吐息を漏らしながら佳波と璃保は答えた。
変なとこでお金つかってんだから、と海子は呆れたように眉を寄せた。

「こんな寒いのに凍らないんだね」
「こら汐、危ないから水には近づいちゃ...」

海子が汐を止めようとした時、わずかに揺れを感じた。
初めは気のせいだと思った。
しかし次第に揺れは大きくなる。
水面も見紛いようもなく震えている。

地震だった。
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