第9章 縛る存在
「そんなことないよ。むしろ...その...嬉し...いです...」
そばに座る凛にも聞こえてしまいしそうなほど心臓がうるさい。
「...そうか」
「でもね...!あたし今完璧に寝るときの服なの...!それに、髪だってなにもしてないし...」
赤面する汐に対し、凛はきょとんとしていた。
「そんなん気にしねぇよ」
「松岡くんは気にしなくてもあたしは気にするの」
凛には、自分の1番可愛いであろう姿を見ていて欲しかった。
異性に対してこんなことを思うのは初めてだった。
「そうかよ、それは悪かったな」
凛は、腑に落ちなさげな微妙な表情を浮かべた。
相変わらず心臓はどきどきとうるさいが、汐は妙な居心地の良さを感じた。
ゆっくりと身を起こす。
「寝てろよ」
「ううん、大丈夫」
居心地がいい。気分がいい。凛には言わないが、汐はそう感じていた。
「ねえ松岡くん」
「なんだ?」
凛の目をみた。ルビーのように美しい赤色だ。凛の目に映る自分はどんな風なのだろうと、少しだけ想いを馳せた。
そして、こう切り出した。
「あたしね、松岡くんには話せる気がする」
「?なにを」
少し間を置いて、汐はゆっくりと口を開いた。
「あたしの、昔のお話」
凛の眉が動いた。動揺している。
そんな凛とは対照的に汐は落ちついた様子で凛と向かい合う。
「それは、お前。無理に話さなくてもいい」
その言葉は凛の優しさだと汐はわかった。けれどゆっくりと首を横にふって、まっすぐ凛を見つめた。
「松岡くんには知って欲しいの。...あんまり、いいお話じゃ、ないけど...」
「...なら、話してくれ」
話してくれ、その言葉が嬉しかった。口の中で小さく、ありがとうと言い、汐はある一点を指さした。
その指の先にあったのは本棚だった。
「本棚?」
「そう。その1番左端の...」
「これか?」
「そう、それ」
凛は汐に示されたその本を手にとった。
それは、小学校の卒業アルバムだった。