第9章 縛る存在
先輩や璃保が帰ったあと、汐はひとりベッドで身を起こし考え事をしていた。
(璃保の言ってた、もう一人のお客さんって誰だろう...)
璃保からは、もう一人お客さんが来てるとしか聞いていない。
水泳部員が1人でくることはないだろうし、クラスの友達はそもそも汐の家を知らない。
心当たりがなかった。
けれど璃保がまったく知らない人を家に上げることはありえないし、そう考えるとやっぱり知り合いなのだろう。
汐はますます首を傾げることとなった。
ひとり考えを巡らせていると、階段を上る音が聞こえた。
そしてそれは足音に変わった。こっちに近づいてくる。
すこし緊張する。
やがて足音は自分の部屋の前で止まり、コンコンコンとノックの音がした。
「...どうぞ」
誰だかわからない訪問者を部屋に招き入れた。
思わず鼓動の音が大きくなる。
呼吸ひとつ分の間の後、ゆっくりと扉が開いた。
扉からのぞく影から分かること。その人物は背が高い。
「...!?え!?」
扉が完全に開いた。そこに立っていたのは凛だった。
(え...!?どうして...!?)
「松岡くん!?どうして...?」
思いもしてなかった人物が、もうひとりのお客さんだった。
心臓が急に加速しだす。顔があつい。
「...風邪の見舞いだ。昨日うちの部員のせいでプールに落ちただろ。それで風邪ひいたんだったら申し訳ねぇだろ」
そういいながら凛は部屋の中に入ってきた。
「そんな...!だって、あたし、全然大丈夫...!」
心臓がうるさい。せっかく下がった熱がまた上がってきそうだ。
「そんな顔赤くて大丈夫なわけねぇだろ。寝てろ」
そういいながら凛は汐のベッドのそばに腰をおろした。
「う...」
起きてようとすると、寝てろと眉間にしわを寄せて言うから汐はしぶしぶベッドに横になった。
(あたし完全に寝るときの格好だし、髪の毛もなにもやってないし、すっごい恥ずかしい...)
完全に楽屋を見られた気分だった。あまりの恥ずかしさに、凛から顔を背けてしまった。
汐に顔を背けられたのが気に障ったのか、凛が少々不機嫌な様子で話しかけてきた。
「なあお前、俺が見舞いにくるの、迷惑だったか?」
汐は凛の方へ振り返った。凛は眉を寄せて汐を見据えている。
拗ねているように見えなくもない。
迷惑なんかじゃなかった。むしろ....