第8章 Water
(泳げねぇんだった...!)
「え、ちょっ...!先輩!?」
豪快に脱ぎ捨てたジャージを似鳥に預け、凛は手に持っていたゴーグルを素早く装着した。
そしてプールに飛び込んだ。
(つか、どうして誰も助けにいかねぇんだよ...!)
凛は水に潜りながらある違和感を覚えた。
鮫柄の部員が助けにいかないのは分かるが、自分たちのチームの泳げないマネージャーをスピラノの部員は助けに行かなかった。
凛にはそれがなぜだか分からなかった。
ゆらゆらと水中でゆれる樺色の髪を見つけた。
身動きひとつせず、水の中に沈んでいく。
凛は汐に近づきその顔を見た。
苦しそうに眉を寄せて、食いしばられた歯の隙間からは泡が漏れている。
汐の手をつかみ肩を寄せ、水面へ向かって浮上をはじめる。
だんだん水面が近づいてきた。水面から光が差し込み水はキラキラとしていた。
そして2人の頭は水面から出てきた。
すぐに汐を引き上げた。
汐は、ふらふらと頼りない足取りでプールから離れた。凛の支えがないと倒れてしまいそうだった。
凛は汐の身体の状態をチェックする。
呼吸は荒いが過呼吸などにはなっていない。それに目立った怪我もなかった。
ひとまずは安心して息をついた。
「おい。大丈夫か、さかみ...」
「だめなの...」
凛の言葉を汐のつぶやきが遮った。
「は.......?」
汐の身体ははっきりとわかるほどガタガタと小刻みに震えていた。
寒いのだろうか、いや、違う。
その瞳の中には明確に、恐怖という感情が映っていた。
そして絞り出すように続ける。
「あなたは、あたしを助けても...あたしの前からいなくなっちゃ...」
「え...」