第8章 Water
「よろしくお願いします!」
威勢のよい挨拶。汐はぐるりと鮫柄の部員を見た。
この前打ち合わせにきたときにいた部員の数よりやや少ない。
どうやら今度の大会にでる人しか今日の合同練習に参加しないらしい。
その中に凛を見つけた。
相変わらず見惚れてしまうほど綺麗な顔と鍛え上げられた筋肉だった。
(松岡くんの身体、ほんとに鍛え上げられてる)
特に汐は凛の大胸筋と腹筋、大腿筋から目が離せなかった。
鍛え上げられた厚い胸板に割れた腹筋、たくましい太腿。自分にはないそれがとても魅力的だった。
(そっか、松岡くんも男の子だもんね...あたしの身体とは全然違う)
凛の身体を見て、急に〝男〟を意識してしまって汐は顔が熱くなっていくのがわかった。
その筋肉に触れたい、と思ってしまった。
(なに考えてるのあたし...これじゃ変態だよ...)
一瞬頭をよぎった邪な考えを振り払うように小さく頭を振った。
そしてなるべく凛の身体を凝視しないように意識する。
それでも心臓がどきどきとうるさい。
汐も年頃の女子である。凛の身体に不覚にもときめいてしまった。
凛は後輩と思われる銀髪に水色の瞳の泣きぼくろが印象的な小柄で可愛らしい少年と話していた。
そういえば先輩なんだよね、と思うと少し笑えてきた。
汐の視線に気づいたのか、凛が汐をみた。目が合う。
今日は恥ずかしいとは思わなかった。
軽く微笑んで見せた。
すると凛は一瞬驚いたような表情をしてからぷいと顔を背けた。
その動作が凛らしくて無意識に頬が緩んだ。
「汐、どうかした?なに笑ってんの?」
そばにいた璃保が怪訝な顔で汐を見た。明らかに怪しんでいる。確かに1人で笑っている汐は怪しい。
そんなことをしているうちに合同練習は始まった。
各自持ち場やコースについた。
凛が向かいから歩いてくる。すれ違いさまに声をかけた。
「頑張ってね松岡くん」
「ああ」
スイッチが入っているのか、凛は汐のほうを見なかった。
しかし汐の声に一瞬だけ小さく笑顔を見せた。
(まただ)
胸がきゅっと締められる感じがした。最近よく感じるこの感覚。
胸の奥がふわふわするけどざわざわとしてきゅっと締め付けられる。
汐自身この感覚がなんなのかよくわからないけれど今はよかった。
さきほどの笑顔を思い出して汐は、今日も頑張ろう。そう思うことができた。