第8章 Water
この日の帰り道は暑かった。
以前と比べて日没の時間が遅くなっているため午後6時半前でもまだ暗くはなかった。
「今日お前鮫柄に来てたな」
「明日は天気よくないみたいだから今日行ったの」
鮫柄もスピラノも、合宿前だからという理由で部活が終わる時間はいつもよりも1時間半ほど早かった。
思えば平日の日没前にこうして会うのは初めてな気がした。
凛は汐が今日鮫柄に来ていたときのことを思い出した。
部長である御子柴が見学室のほうにいたから今日汐がくることは容易に想像できた。
しばらくしたら他の部員が、スピラノのマネージャーがいるぞだの汐ちゃんがきただの騒ぎ始めた。
凛は意図的に見学室のほうを見ないようにしていた。
最初に汐が御子柴と仲良さげに話しているところを見てしまった。
なぜだか、マネージャーの仕事と解ってはいるものの汐が御子柴と...他の男と笑顔を浮かべながら話しているところを見たいとは思えなかった。
そのうち部員たちが、汐ちゃんがこっち見てると騒ぎ出した。
こっちを見てる、その言葉に凛はちらりと汐のいる見学室のほうに目をやった。
そうしたら汐と目があった。
一瞬どきりとした。そして次に昨日の汐の、松岡くん見かけたらガン見するね、という言葉を思い出した。
こいつマジでガン見してやがった、と思うと可笑しくて笑えてきた。
きまりが悪そうに微妙な表情をする汐に自然とわいてきた笑顔を向けた。
そうしたら少し嬉しそうに口パクでなにか言ってきた。
なんて言ったのかはわからなかったが練習に戻るために振り向いた際に片手をあげて汐に軽い挨拶を送った。
そんなことをしていたら部活終了後着替えてるときに他の部員に汐とはどういう関係なのかと囲まれてしまった。
面倒だったから、ケータイを落とした鮫柄の部員とそれを拾ったスピラノのマネージャーの関係。と答え、部員を振り切り今に至る。
心地よい沈黙が続いていたがそれを破ったのは汐のほうだった。
「今日暑いね」
「そうだな」
「天気予報で言ってたけど、今年の梅雨明けは早いんだって。県大会前には明けるみたい」
「県大会は屋外プールって聞いた。外だと雨降られると困るからな」
「そうそう。晴れてもらわなきゃ困るよね。...もう県大会かあ、夏だね」
体育とかも日焼けしちゃうよ、と汐は笑った。