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Emotional Reliable

第8章 Water


 
「やあ榊宮くん!あずみのおつかいだね?」
翌日、汐は合同練習の打ち合わせのために鮫柄まで来ていた。

この日は久々に晴れていた。6月も下旬に入り、夏がもう間近であることを訴えるような暑さだった。
汐を見下ろし白い歯を出しながら笑う御子柴はさながら真夏の太陽を思わせた。

「合同練習の打ち合わせにきました」
御子柴の笑顔に応えるように汐も笑顔を浮かべた。

「暑い中ご苦労だな!」
「ありがとうございます。今日すごい暑いですよね」

まだ6月だということが信じられないくらいの暑さだった。
もう16時を回ろうとしているのに全然涼しくない。
通された見学室には冷房が入っていたが、いかんせんガラスで仕切られてはいるもののプールがすぐそばにあるため蒸し暑さが残る。
今すぐタイを外しボタンを2つほど外したい衝動に駆られるが、ここは女子校ではないためそんなことはできない。


合同練習もこれまでに何回かやってきているため打ち合わせはすんなり進んだ。
汐はガラスの向こうの練習風景に目を向けた。
スピラノ水泳部の2倍の人数は有するであろう大勢の部員がそこにいた。
個人差はあるもののみな鍛え上げられた肉体である。
その中で一際精悍な肉体をした背の高い選手に目がいった。
彼は飛び込み台の上に立っていた。


(あ...)

小さく鼓動がはねた。赤い髪の彼...凛は水飛沫を上げてプールへ飛び込んだ。
そしてバタフライで100mを泳ぎ切りプールサイドへ上がってきた。

汐は飛び込みから今まで、凛から目を離せないでいた。
じっと凛を見つめていると、不意に凛はこちらを振り向いた。
汐は凛と目が合ってしまった。

今度は大きく鼓動がはねた。偶然だが恥ずかしすぎる。
昨日は冗談のつもりであんなことを言ったのに本当に凛のことをガン見していた。
目を逸らすこともできずに汐は曖昧な笑顔を浮かべた。

そんな汐の様子が可笑しかったのか、凛は汐に向けて小さく笑顔を向けた。
その笑顔を受け取ると汐は胸の奥がふわりと暖かくなるのを感じた。
そして、誰にも分らないように口の中で、頑張ってね、とつぶやいた。
心がふわふわと暖かい。まるで2人で秘密を共有しているような気分になった。
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