第8章 Water
再び横目で汐を見た。伏し目がちなそのまなざしは真剣だった。
「...一緒にいたいって思うのとか、ふとした瞬間にその人のことを考えてるとか、そんな感じじゃない?」
「そっか」
ふっと表情をほころばぜた汐に今度は璃保のほうから質問を投げかけようと思ったその時。
「みーこ!いた!!探してたんだよー!」
「あずみさん」
スピラノ水泳部の部長、あずみがプールの建物の屋根の下で汐を呼んだ。
璃保と汐は小走りであずみのところへ行った。
「なんですか?」
「合宿終わって県大会前に追い込みを兼ねた合同練習やるから!明日か明後日くらいに打ち合わせ行ってきて!」
あずみはいつも突然で強引である。中学のころからそうであったから汐にとってはもう慣れっこであった。
「汐、いってらっしゃい」
「どことやるんですか?」
肝心の練習相手がまだ知らされていなかった。
これでは打ち合わせに行きようがない。
あずみは夏に咲くひまわりのような笑顔を浮かべた。
これが突然で強引なあずみのことを憎めない要因であると汐はしみじみ思う。
汐はあずみのこの笑顔が好きだった。
「あーごめん言ってなかった!鮫柄だよ。向こうの部長にはもうみーこが行くこと伝えてあるから!」
そうやって笑うあずみには鮫柄の部長の御子柴と似通ったところが見られる、さすが幼馴染だなと汐は思う。
璃保はちらりと汐を見た。汐はなにか考え事をしているようだった。
〝鮫柄〟この言葉が汐の胸にすとんと居座った。
普段とはちがう胸の高鳴りを覚えた。
鮫柄ときいて一番最初に浮かんだのは凛の顔だった。
(泳いでる松岡くん、見れるんだ)
凛と仲良くなってからまだ凛の泳ぎは見たことがなかった。
普段とはまだ違った凛が見れる。
(合同練習、楽しみだな)
新たな楽しみができた。胸が躍った。
自然と笑みがこぼれた。
その笑みを璃保は見逃さなかった。
けれど深く追求はしないことにした。