第7章 あめのひ
(どうしよう、雨降ってきちゃった...)
この日は璃保含め他の部員の生活する寮で一緒に昼食をとってきた。
その帰り際、璃保に言われたことを思い出した。
(璃保が言ってくれた通り、傘借りてくればよかったな...)
帰り際、璃保が傘借りていけばと言ってくれた。だが汐はそれを断った。
駅までは少し距離がある。空は灰色の厚い雲に覆われている。もうしばらくは止まないだろう。
汐は溜息をついた。
もういっそビニール傘買って帰ろうか、そう思い始めたとき。
「おいお前」
唐突に声をかけられた。この声、それにこの声のかけ方をする人なんて1人しか知らない。
「松岡くん!?」
振り向く前からだいたい誰が自分の名前を呼んだのかは想像がついた。
振り向いたらその人がいた。予想通りの人物だったがそれでもびっくりした。
なんでいるの、と訊きたかったがやめた。
「なにしてんだ?」
十分予想できた問いかけだったが少しギクリとした。
「あー...えっと、あ...雨宿り...?みたいな?」
目が泳ぎまくってる。
凛はいつも通りのつんと澄ました表情。
甘栗を買うか買わないかで悩んでたらいつの間にか雨が降ってきてその上傘を持ってない、なんて恥ずかしくてとても言えない。
「は...?雨宿り?お前傘は?」
何言ってんだお前、という表情で見てくる。
甘栗のことで悩んでいた自分を殴りたい。
「ない...です。...でも!ビニール傘買って帰ろうとおもっ...」
「金もったねぇだろ」
最後まで言わせてもらえなかった。ばっさり切り捨てられてしまった。
そんなこと言われたらどうやって帰ればいいのだろうか。
またこのあいだみたいに雨の中走って帰るのだろうか。
凛にばっさり切り捨てられてしまって汐はすこし肩を落としてしまった。
凛は小さい溜息をひとつ。こう言った。
「ったく、しゃーねぇな。駅まで送ってってやる」
そう言って凛は踵を返してすたすた歩き出した。
「え?」
突然すぎて一瞬固まってしまった。
駅まで送ってく、ということは。
「なにしてんだ、傘ねぇんだろ。早くしろ、置いてくぞ」
「えっ、あ...ごめん。待って」
展開がいまいち呑み込めないまま、汐は凛の背を追いかけた。