第7章 あめのひ
カーテンの隙間からこぼれる微妙な光で目を開けた。
寝起きのまだ覚醒しない身体をベッドから起こし、汐は自室の扉を開けた。
階段を下りてリビングの扉を開けると母親がキッチンにいた。
その背に声をかけた。
「おはよう。あれ、お母さん今日の朝はいるんだ」
「おはよう。そう、今朝はいつもよりゆっくりなの。そのかわり帰り遅いけどね。...たまには子どもにちゃんと朝ご飯つくってあげないとね」
にこりと微笑む母は汐と似ていた。その顔に対して、似たような笑顔で返した。
汐の母は大学の准教授をしていて出勤時間にむらがある。
早い日は早いし、遅い日もある。研究や出張で家にいないことも少なくない。
だから普段の朝食は汐が作っていた。
「そうだ汐、今日は折りたたみ傘持って行ってね」
「折りたたみ傘?」
アイスコーヒーにガムシロップとミルクを入れながら尋ねた。
母は天気予報を映しているテレビを指さした。
「今日、夜8時過ぎくらいから雨ふるかもだって。その時間ってたしか汐が帰るくらいの時間でしょ?」
「...」
(また雨、か)
もう1週間も雨が続いている。
汐の通る道は、もともと人通りの少ない道だが雨の日はさらに閑散とする。
それに雨ということは凛もランニングに出かけないだろう。
もう1週間姿を見ていなかった。ゆるくメールのやりとりはしている。
だが汐はメールより会話が好きだった。
(松岡くんとお話したいな)
1週間会わないと話のネタが溜まるな、そんなことを考えてるとき。
「...お。...汐」
母の呼ぶ声がやたら大きく聞こえた。
不意に呼ばれた気がして汐はハッとした。
「どうしたの、汐。ボーっとして。考え事?」
自分ではボーっとしてるつもりはなかった。
しかしはたから見ればボーっとしていたらしい。
「なんでもないよ!ごちそうさま!」
誤魔化しになるかならないか、ガムシロップ2個にミルク2個の甘いコーヒーを飲みほしリビングをでた。
「よしっ」
前髪に黒いヘアピンをさした。
そして玄関に置いてあった折りたたみ傘を鞄に放り込み扉を開けた。
「天気、もつといいなあ」
眼前には微妙に晴れ間の見える曇り空が広がっていた。