第7章 あめのひ
星の降る美しい夜から数日。汐は退屈そうに窓の外を眺めていた。
午後の授業は英語から始まる。食後ということもあってとても眠い。
つい大きな口をあけてふぁぁ、と空気を食んでしまう。
(雨、止まないかなあ)
流星群の夜から4日が過ぎた。
あの日以来雨が続いていた。
(そういえば松岡くん、帰国子女だったっけ)
今が英語の授業だからか、ふとそのことを思い出した。
凛と会って話した回数はまだ両手で数えられるほどだったがその短い間にいろんな話をした。
オーストラリアに4年間留学していた、という話を聞いたのは随分昔のように思えた。
(じゃあ英語ぺらぺらなんだろうな)
英語を話してる凛のことを想像すると無意識にふふっと笑みがこぼれた。
だが汐は凛がオーストラリアで過ごしていた間の話を何もしらなかった。
知りたいとは思う。けれど凛が話そうとしない。
他の話を振ると色々と話してくれる。けれど昔の話を振るとはぐらかされる。
きっと昔のことは話したくないんだろう、汐はそう捉えてる。
誰にだって話したくないことくらいある。
汐にだってある。凛にも同じようにあるだろう。
だからそのことは自分から追及しないようにした。
(もう4日も会ってないのか...)
4日前のことを思い起こした。
あの、星の降る美しい夜道を2人で楽しく会話しながら歩いた日。
具体的な待ち合わせをしたのは初めてだった。
待ち合わせで2人が発した第一声は同じだった。
タイミングよすぎ。
そのとき凛が見せた笑顔。いや、少し表情を崩しただけだったが。
その表情に汐は胸の奥がなんだかくすぐられるような感覚を覚えた。
思い出すと今でもまた頬が少し緩む。
外では雨が降り続いている。
さああ...という静かな雨の音と英文を読み上げる声。
汐はだんだんまぶたが重くなっていくのを感じた。
やば...眠い...、そう思いながら汐は目を閉じた。