第6章 星月夜
「うちの子たちはみんないわゆる才能に恵まれた人、なんだけどみんな自分に厳しいんだ。だから強いんだと思う。確かに才能の有無でスタートラインは違うかもしれないけど、その差は努力で埋めれると思わない?あたしマネージャー5年目だけど、やっぱり自分に厳しい人は強いよ。だからあたしは才能ってそんなに大きいものじゃないと思うんだよね」
努力は才能を上回るものだよ、と汐はまとめた。
凛は静かに汐を見た。夜のとばり、月明かりの下、あずき色もしくは深い薔薇色ともとれる瞳が凛を見据えていた。
汐の言葉は凛の自論と同じだった。
凛はいくらか救われた気分になった。
改めて、汐と話せてよかった。もっと話したい。そう思った。
夜空を眺めながらのランニングから凛は寮に戻った。
部屋の扉を開けると似鳥が声をかけてきた。
「おかえりなさい、松岡先輩!」
「ああ」
相変わらず似鳥の机周りはごちゃごちゃしている。
似鳥らしいな、と思いながら風呂に行く支度を始める。
支度が終わりお風呂に行こうとすると、唐突に似鳥に声をかけられた。
「松岡先輩、最近決まった時間にランニングに行くんですね」
一瞬扉を開けようとした手が止まった。
「...そうだな」
「誰かと会っているんですか?」
こういうところは妙に鋭い。
「別に。そういうわけじゃねえよ」
そっけなく言い放った。似鳥をはじめ誰にも、ランニング中たまに汐と会ってることを言うつもりはない。
言ったら言ったで嫌な予感しかしないし、汐にも迷惑がかかるだろうと思った。
昔から嫌な予感はほぼ100%の確率であたってきた。
今回も同じにおいがする。
面倒なことは、ごめんだった。