第6章 星月夜
(こいつ、今の、って言ったよな...)
今の、とはどういうことなのだろう。昔は違ったのか。昔はいて今はいない誰かがいるのだろうか。
いろいろと疑問が浮かんできた。と、同時に凛自身その疑問が浮かんできたことに驚いた。
凛は面倒事が嫌いなため、他人に過干渉しないようにしている。深入りしないし、されたくない。日本に帰国して以来ずっとそうだった。
それなのに、汐の一言に自分でも驚くほどの疑問が浮かんできた。
これはどういうことなのだろう、と凛は自分に問いかけたかった。
問いかけたところで答えは出ないだろうけど。
それよりも今は汐の、今のという発言が気になって仕方がない。
疑問の一部をぶつけようと思い、汐の顔を見た。
長い睫毛の下、月明かりをうけてローライドガーネットのように煌めく瞳に星空が映り込んでいる。
凛は息を呑んだ。
その貌が綺麗で、えもいわれぬ気持ちになった。
凛はなにも言えなくなってしまった。
だから凛は気づかなかった。瞳に星空を宿した彼女が、星ではないなにか別のものを見ていたことを。