第5章 午後8時
駅が見えてきた。
駅までの十数分、しゃべっていたらあっというまだった。
凛は久しぶりに会話が楽しいと感じた。多分汐が楽しそうにいろいろ話すからだ。
「松岡くん、今日はありがとね!楽しかった」
「ああ」
「...そうだ、松岡くんケータイ持ってる?」
汐はポケットから自分のケータイを取り出した。
赤外線使える?と訊いてから汐はケータイをいじりだした。
「メアド、もしよかったら教えてほしいな。いろいろと偶然が重なった記念、みたいな?」
いたずらっぽくにこっと微笑む汐は、凛と初めて会ったときのそれと同じものだった。
初めて会ったときに感じたものと似たようなものを感じた。
「じゃ、あたし行くね。ほんと、いろいろありがとーね!」
メールアドレスの交換が終わって汐は踵を返し歩き出す。
その背を凛は呼び止めた。
「榊宮」
無意識だった。ん?と汐は振り向いた。
「お前、いつもこの時間か?」
俺はなんのつもりでこんなこと訊いてんだ、と凛は自分自身の言動に驚いた。
汐はきょとんとしている。帰り、と凛は付け足した。
「そうだよ!」
笑顔で返しまたねと手を振った汐。その笑顔をみるとまた少しだけ頬が緩んだのを自身で感じた。
凛はランニングに戻った。
寮を出た時間は午後8時だった。