第5章 午後8時
「へえ、松岡くんって実家佐野町なんだ!あたしと一緒だね」
「お前もなのか?の、割には小学校にはいなかっただろ」
「あたしが中学あがるときにこっちに引っ越してきたの」
駅まで向かう途中、凛と汐は様々なことを話した。
話していくうちに凛の実家と汐の家が同じ町で、しかも結構近いことが発覚した。
「でも、こんなに家近いのに一回も会ったっていうか、すれ違った記憶もないなんて不思議だね」
「不思議じゃねえよ。...俺、こっちの中学じゃなかったし」
「え、どこいってたの?」
「...オーストラリア」
オーストラリア、そう言った凛の表情が少しくもったのを汐は見逃さなかった。
これ以上深入りしないほうがいいな、と汐は思った。
どう返そうかな、と迷っていたところに凛がふいにこんなことを訊いてきた。
「てか、お前身長いくつなんだ?」
初めて会ったときから凛が汐について思ってたこと。背が低い。
「155㎝」
「ちっさ。チビだな」
「もー、いきなり訊いといてチビはないでしょー」
軽くムッとした表情の汐。それがなんだか小動物みたいで凛の頬がほんの少し緩んだ。
(へえ...)
汐は驚いた。
(こんな表情もするんだ)
汐の知る凛はいつも仏頂面で無愛想で、笑わない人。
そんな人がほんの少しだけでも表情を柔らかくしてくれたのがちょっと嬉しかった。