第5章 午後8時
数日後、部活後の更衣室。汐と璃保の二人きり。
「汐、アンタそんなヘアピンもってたの?」
「え?」
いきなりどうしたの?と汐は璃保を見た。
璃保は汐の前髪につけられたヘアピンを指さした。
フラワーモチーフのピンクのストーンが可愛らしい華奢なデザインのピンだった。
「ああ、これね。最近買ったの!かわいいでしょ」
「うんかわいい」
汐の前髪で新調されたヘアピンが照明の光を反射してきらきらと輝いている。
よく似合ってると璃保は思う。
汐はケータイを開いた。そして荷物をまとめて更衣室のドアへ向かった。
急いでるようにも見えた。
「汐、このあと用事でもあるの?」
「えっ、特にそういうわけじゃないよ。じゃ、あたし帰るね。璃保お疲れ様!また明日ね!」
「じゃーねー」
笑顔で手を振る汐を送り出すと、璃保は1人更衣室に残された。
(あの子、朝は黒いヘアピンしてた)
璃保は汐のヘアピンに気づいていた。
時計を見た。午後8時前。
「今日もたくさん泳いて疲れた...」
淡い溜息を漏らす。璃保は寮に帰ろうと歩いていた。
暗い中だが緑の垣根に白い花がよく映える。
「白いツツジ、綺麗ね」
寮は学校の敷地内にある。
そこまでの道も他と同様美しい花で彩られている。
今はツツジが最盛期を迎えてきた。
洗練されたような雰囲気を醸す学校の景観を保つために赤いツツジは植えられていなかった。
璃保は寮までの白いツツジの道を同じく白い百合のような制服姿で歩いていった。