第5章 午後8時
実は汐が初めて凛をちゃんと見たのは昨日だった。初対面から顔の整った人だとは思っていたけれど、あの瞳。
ルビーともガーネットとも形容できる美しい赤。
とても、印象的だった。
それから数日が経った。
凛は頬杖をつき気だるげに窓の外を眺めていた。
朝日がちょっとまぶしい。
朝のホームルームで担任がなにか連絡事項を言っているのを意識の端のほうで聞いていた。
「―...で最近の話だが、午後8時ごろスピラノの生徒がこのあたりの住宅街で不審者に遭ったそうだ。お前たちも気を付けるように...と言いたいところだが、お前たちは逆に不審者と間違えられないように気を付けるように。」
スピラノ、と聴いて一瞬汐の姿が頭に浮かんだ。がすぐに消えていった。
「特に上の空でよそ見をしてる松岡。気をつけろよ」
どっと笑いが起こる。不審者になんて間違えられるわけねーだろ、と思いながら視線を担任に向ける。
担任も笑っている。
恥ずかしさを誤魔化そうと凛は咳払いをした。
一瞬だけでも汐のことを考えたのが担任に見透かされたようでなんだか少し顔が熱くなった気がした。