第5章 午後8時
4限が終わりお昼休み。
汐は璃保と一緒に食堂へ向かった。
「汐、今日はなに食べるの?」
「カニとエビのクリームパスタとシーザーサラダとバニラカフェラテにしよっかな」
「放課後部活あんのにそれだけでいいの?」
「今日はこれだけでいいかな」
ただし汐と璃保のいうこれだけやそれだけは他の女子から言わせると、多いよ、である。
スピラノの食堂は食堂というよりカフェテリアやフードコートに近い施設である。
中学と高校と全員がここを利用できるためかなり広い。
ガラス張りで採光のいい綺麗な空間だった。
汐が先に注文した料理を持って席まで歩いてると、水泳部員に会った。
「あー、みーこじゃん!」
「あれー璃保は?」
「みーこお昼それだけでいいわけ?お腹すくでしょ」
汐を見かけるたびにやたら声をかけてくる水泳部員。もう慣れっこだ。
そしてここでもいうが水泳部員の、それだけ、は他の女子からすれば多い。
「てか、みーこさ。その膝どしたの?」
1人の部員が汐の膝にあてられたガーゼを指さした。
「あ、これは」
「転んだんだって」
「璃保!」
汐の後ろから璃保が現れた。その手に持たれたトレーには大盛りのオムライスにサラダ、コーヒーが乗っていた。
「まじで?みーこドジだなぁ」
「ほんと、気をつけなよー」
口ぐちにドジだのおっちょこちょいだの遠慮なく言う部員に、あははと微妙な笑顔を向けて汐は席まで向かった。
(そうだ)
汐は席についた。そしてポケットからケータイを取り出した。
(昨日松岡くんにお世話になったから、ありがとうってメールしよ)
ケータイを開きアドレス帳を出す。そして気づく。
(...そういえばあたし、松岡くんのアドレスしらなかった)
一連の自分の行動がバカっぽく思えて汐は1人ふっと笑ってしまった。
「汐、なにケータイみてニヤニヤしてんの?」
璃保に見られていた。
不審者を見るような目で汐を見る。
「ニヤニヤなんてしてないよ」
と、汐は言うがはたから見れば確実ににやけていた。
皿に盛られた野菜にフォークを刺しながら汐は昨夜の出来事を思い出した。
最初の冷やかな態度、意外なやさしさ、そしてあの綺麗な瞳。
(すごく綺麗な人だったな...)