第4章 噂のカノジョ
「よろしくお願いします。」
スピラノ水泳部の挨拶はさわやかで強く、まさに強豪校のそれといった感じだった。
あいつらが言ってた通りだ、と凛は思った。
みんな背が高くて美女だった。顔つきや立ち姿にも隙が見られない。
凛は気づいた。
長身美女の集団のなかにひとり。見覚えのある背の低い女の子。
「っ...!」
軽く胸がはねる。
(あいつ...あの日俺のケータイを拾った女だ...)
視線が交わる。凛の中の〝ケータイの人〟は柔らかく微笑んだ。
「スピラノのマネージャーの榊宮です。今日はよろしくお願いします」
こないだのいたずらな笑顔と、今目の前にいる汐の笑顔が重なる。
と、突然後ろから肩を組まれた。
凛が迷惑そうな視線を送ると、その肩を組んだ鮫柄の部員は凛の耳元でにやにやしながらこう言った。
「あの子が、汐ちゃんつってお前が女傑の中の女傑とか言ってたスピラノのマネージャーだ。ちなみに俺たちと同じ2年生。かわいいだろー!」
「別に。おら、離せよ。練習はじまっぞ」
噂のカノジョは鮫柄水泳部のひそかなアイドルだった。噂のカノジョは凛の〝ケータイの人〟だった。
(こんな偶然、ありかよ)
そしてスピラノと鮫柄の合同練習が始まった。
「汐、アンタがこないだ言ってたケータイの人ってどの人?」
練習が終わり更衣室で一息ついていた汐に璃保が声をかけた。
「えっと、タイムトライアルのときに璃保の隣のレーン泳いでた人だよ。」
そういいながら汐は服を着替えた。
「あの赤髪の背の高い怖そうな人?」
璃保ははっきりとものをいう女だ。凛はその顔たちや声、しゃべり方のせいで怖そう、と形容されてしまった。
「怖い人かどうかはわからないけど...」
汐は苦笑しながら荷物をまとめた。
そして、あたし外で待ってるからと言って出ていった。
そうそうに更衣室から出ていった汐を見送った璃保は、ベンチに腰を下ろし濡れた黒髪を拭きながら考え込む。
(アタシが思った通り...汐が言ってた〝ケータイの人〟やっぱりあの赤髪男だった...)
汐が今日の合同練習のために鮫柄までいった日のことを思い出す。
あの日、鮫柄から帰ってきた汐はちょっと楽しそうにケータイの人のことを話してた。
璃保は、嘆息した。
(これからどうなるかしら...)