第4章 噂のカノジョ
反射的にガラスに背を向けてしまった。
「榊宮くん...?どうかしたのか?」
御子柴が怪訝な顔で汐の顔をのぞき込む。
「あ、いえ!なんでもないです」
慌てて笑顔を浮かべた。
本当になんでもなかった。ただ、反射的に背を向けただけ。
ゆっくりとガラスに向き直った。
さっきの人は向こう側を向いて部員と話していた。
そして、なんだかホッとした自分がいることに驚いた。
(なにしてんだろあたし...)
自分がとった意味不明な行動に赤面しつつ、御子柴と合同練習についての最終確認をした。
汐が鮫柄の校門を出るころには空には橙色と藍色のグラデーションがかかっていた。
(こないだのケータイの人、鮫柄の水泳部の人だったんだ...)
ぶつかったときの彼の困惑した表情を思い出した。
(でも、春休みの合同練習のときにはいなかったよね。1年生かな...)
ぶつかったときに感じたあの威圧感。気圧されはしなかったが1年生であるという可能性はほぼ無いと思う。
(ま、どっちにしろ鮫柄にまた1人すごい人が入ったのは確かかな)
汐は〝ケータイの人〟に関していろいろ考えを巡らせながら、スピラノへの道を歩いて行った。