第5章 隣の温もり
もし仮に、今回の壁外調査でペトラ達を失うことなどになれば、私はどうなってしまうのだろうとザラは思った。
今度こそ気が触れて、二度とこちら側の精神世界には戻って来られないかもしれない。
さまざまな思いが胸中を渦巻く最中、じわじわとザラの胸に、言いようのない不快感が込み上げてきた。
壁外調査へ行けない。
行きたくないなどという甘えではなく、不慮の事故だ。
きっと兵士の誰も壁外調査に行かないザラを責めなどしないだろう。
もっともらしい理由をもって、戦線を離脱する。
そこが、ザラの胸に引っ掛かった。
胸のどこかを、一抹の安堵が、よぎったかのように感じたからである。
志を同じくする兵士たちが戦いに出るさまを指をくわえて見ていることしか出来ないというのに、その屈辱の中に紛れて、あの場所へ行かなくてもいいのだという安堵が見え隠れしているような気がした。
余りの自己嫌悪に、ザラは目眩がしそうになった。
リヴァイを前に、口先では反抗しつつも、心のどこかにそんな思いがある自分が許せなかった。
弱い自分に───卑怯な自分に、悔しくて涙が出た。
何が兵士だ、心臓を捧げると誓ったはずだと心の中で強く自分をなじった。
『…あの惨状を…身の震え上がる思いを、しないで済むと、』
震える声で、俯いたままザラが言った。
『安心している自分がいる気がして…兵長、すみません、私、覚悟が…覚悟が、ぜんぜん』
涙でくしゃくしゃの顔をザラはあげた。
『全然、できていなくて…』
泣くのは卑怯だとザラは思った。
泣いちゃだめだ、泣くもんかと手のひらで力いっぱい涙の流れる頬と目元をぐいと拭った。
新兵がこんな風に泣こうものなら、上官や他の兵士は、きっと慰めてくれてしまうだろう。
ザラはそれが嫌だった。
覚悟を───強い信念を、胸に突き立て、誓ったはずだった。
この期に及んでまだ甘い自分が、死にたくなるほどザラは嫌だった。
「…泣いても落ち込んでも、現状は何も変わらない」
必死に涙を堪えて唇を噛み締めているザラを見兼ね、リヴァイが小さく言った。
ザラの気概は十分に伝わっていた。
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