第8章 命の記憶
ザラの刃は届かなかった。
眩い閃光が目を貫き、アッと顔を背けたところで、突如として前方から発生した凄まじい爆風に体ごと軽々と吹き飛ばされた。
体の均衡を失い、どちらが空でどちらが地かすらもわからなくなったその時、グンタと同じように大木の幹に叩きつけられザラの体は止まった。
叩きつけられた衝撃で呼吸は詰まり、遅れて痛みがやってきた。
「ザラ……」
大木からずり落ち、ザラが地面へと落下していく。
今すぐ駆けつけてその体を抱きとめたいのに、ペトラの体は動けなかった。
落下していくザラの後ろに、信じがたい光景が広がっていた。
「やはりか! 来るぞ……女型の巨人だ!!」
艶やかな金髪が目を引く、巨大で頑健な体躯の女。
女型の巨人と称される彼女は今まさに、再び巨大樹の森に爆発音のような足音を轟かせ、リヴァイ班の背後へと迫っていた。
「ザラさん!!」
辿るべき退路とは反対の方向へ飛び出したのはエレンだった。
落下するザラが地面へと到達するすんでのところで掬い上げるように抱き留めると、そのまま大木の幹に着地して体の向きを変え、幹を強く蹴り出すのと同時に再び空へと躍り出た。
「エレンよくやった! お前はそのまま飛べ!!」
「エルドさん!」
ザラを抱きかかえながらの必死の飛行にバランスを崩しつつあったエレンから即座にザラを預かり、エルドが叫ぶ。
すると意識を失っていたザラがエルドの腕の中で小さく唸り、眉をしかめて辛そうに何度か瞬きをしたあと、ゆっくり『大丈夫だ』とだけ呟いた。
「ザラよせ、お前はこのまま……」
『いや、大丈夫。自分で飛べる、ごめん』
実際身体中が軋むように痛んだし、頭も打っていたようだが、なんとかザラは再び自分で立体機動へと移った。
幸いにも、立体機動装置は外身に少々傷がついたばかりで、肝心の装置自体は壊れていないようだった。
グンタを失った5人のリヴァイ班はそのまま逃げる体勢に入ったが、女型の巨人はぐんぐんとスピードを上げ背後から迫りきている。
見かねたエレンが今度こそ俺がやりますと叫ぶも、すぐさま叩きつけるようにエルドがだめだと叱咤した。
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