第5章 隣の温もり
火照った頬をなぞるリヴァイの指は冷たく、気持ちがよかった。
ザラは真っ赤な顔を俯けて、触れたいってどういうことだろう、と思った。
言葉の真意を確かめたいのに、訊けば今までうやむやになっていた事の核心に触れてしまう気がした。
もし今の二人の関係が変わるようなことがあってしまっては困るとザラは思った。
傍にあるリヴァイの温もりを失うのは怖い。
ならばこのまま本質には触れず、不確かな二人の関係を続ける方がよっぽどいいと思うのだった。
「お前も何かわかるように合図をしろ。肩を叩くでも、指に触れるでも何でもいい。ただ…周りに悟られないようにしろよ」
ザラは黙って頷いた。
万が一リヴァイとの関係を人に問いただされた時、何と説明すればよいのかザラにはわからなかった。
肉体的な結び付きがあるわけではない。
ただ身を寄せ合って眠るだけだが、何もない男女の一線を超えてしまっていることは確かだった。
相手は兵団が誇るリヴァイ兵士長である。
ザラとのことが人に知られれば、噂は瞬く間に兵団中に広がるであろうし、外野は何かとうるさいだろう。
実際、ザラはリヴァイとの関係が自分でもよくわかっていなかった。
傍に寄ることを許されている、ただそれだけである。
形としてはリヴァイから傍にいることを求められているのだが、眠る事以外に二人の関係に以前と変化はない。
初めて共に眠った日の翌日口付けを交わしたが、あれもあの日一度きりだった。
あの口付けはなんだったのだろうとザラは時々考える。
吸い寄せられるようにして交わしたものだったが、あの時は、そうすることがごく当たり前のことのように思えた。
「そういや、ペトラと同室だと言っていたな。ペトラにはいつも何と言って部屋を出てきてるんだ」
ぎくりとザラは肩を揺らした。
いつかは聞かれるのではと思っていたが、こんなに早いとは思っていなかったのだ。
躊躇いがちにリヴァイの顔色を伺いながら、ザラが小さく言う。
『…言っても、笑いませんか』
「お前の返答に寄る」
『よ、夜通し、立体機動の訓練をつけていただいてるって、嘘ついてます』
言うや否や、リヴァイが吹き出した。
「おま…なんだそりゃ」
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