第5章 隣の温もり
ザラがリヴァイの部屋で眠ったその日から、二人の間にはお互いにしかわからない合図のやり取りができた。
例えば食堂で食事をとっている時や、厩舎の掃除をしている時。
または、兵舎の窓を磨いている時や、倉庫でガス菅の整備をしている時など、どこからともなくふらりとリヴァイが現れて、通りすがりにザラの座っている机や近くの壁、またはザラの肩を、トントンと人差し指で叩いた。
それがリヴァイの合図だった。
初めて合図を受け取った日、ザラは合図の意味をわかり損なったが、もしやと思い夜更け、寝る支度を済ませてから人目を忍んでリヴァイの部屋を訪れてみると、寝間着姿でザラを待つリヴァイの姿があった。
どうやら、今夜俺の部屋に来いというのが、合図の真意らしかった。
ザラの姿を確認すると、リヴァイは蝋燭を消し、あたかも当然であるようにザラをベッドへ導くと、後ろから彼女を抱いて眠りについた。
朝、ザラが先に目を覚まして眠るリヴァイをそのままに自室へと戻ることもあれば、ザラが目を覚ました時にはもうリヴァイの姿がないこともあった。
『…あのう、私が兵長の部屋へ行きたいと思った時は、どうすればいいのでしょうか』
秘密のやり取りが始まって少し経ったある日の夜、真面目くさった表情でザラがリヴァイへと尋ねた。
あまりにも真剣な様子だったのでリヴァイは思わず笑ってしまった。
「なんだ、俺からの一方的な誘いだと不服か」
『いえあの…いいんですけど、別に今のままでも。でもやっぱり、あるんですよ、私にも。落ち込んだ日とか、何もかも上手くいかなかった日とか』
「…そんな日、俺に会いたくなるのか」
『ええまあ…。あれ?じゃあ兵長は、どんな日私を呼んでいるんですか?』
てっきりリヴァイも業務に疲弊した日だとか、続けざまにトラブルの起きた日などに自分を呼んでいると思っていたので、ザラは不思議そうな顔をして尋ねた。
「…さあな。ただ、お前に触れたいと思った時に呼んでる」
お前に触れたい、とザラはリヴァイの放った言葉を意味を確かめるように心の中で繰り返し、瞬く間に顔を真っ赤にさせた。
その赤くなった頬を撫で、リヴァイが ふ、と笑う。
「…真っ赤」
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