第5章 隣の温もり
いつもザラと行動をともにしていたペトラは、ザラを見つめるリヴァイの目線に気がついていた。
ザラは気付いていなかったであろうが、ふとした時、心配するように、時には慈しむように、ザラの姿をリヴァイは瞳で追っていた。
リヴァイは好いた相手だったが、それ以上にペトラはザラが大切だった。
叶わぬ恋心などは胸の奥にしまい、リヴァイとザラの姿を見守りたいとペトラは思った。
リヴァイの存在がアーヴィンを失ったザラの心を今世へと繋ぎ止めているのだとわかる。
感謝せずにはいられなかった。
『さあ…支度して、行こう、ペトラ』
ザラは窓の外に目をやったあと、ペトラへと笑いかけた。
こうして何事もなかったかのように、元の日常へ戻っていく。
あまりにも多くのものを失い、傷付いた心を抱えながら、また、日常へと。
ふとペトラとザラの目があった。
ザラがくすりと笑う。
ペトラの赤く腫れた目元を指差して、ブサイクと一言つぶやいた。
「なっ…!あなただって酷い顔よ!頬なんてげっそりしちゃって、おばあさんみたい」
心外だという風にペトラが猛反発する。
ザラはというと、咄嗟に両手を頬にあて顔を真っ赤にさせた。
そういえば、もう何日も食べ物を口にしていなかった。
認知した途端、急激に空腹感が彼女を襲った。
『ああ、お腹すいた。お腹がすいたよ。早く顔洗って、食堂にいこう。硬いパンが恋しいわ』
少女たちはけらけらと笑って立ち上がり、部屋をあとにする。
明るい二人の話し声がだんだんと遠ざかり、部屋は静寂に包まれる。
かつては四人の新兵の談笑が響いたこの部屋に、帰る者はもうペトラとザラしかいないのだった。
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