第2章 第一印象は最悪
少し意地悪してやろうという気持ちで声をかけたリヴァイだったが、いかんせんギャラリーが多すぎた。
そもそもの事の発端はザラがリヴァイを噴水に突き落としたことなのだが、大勢の取り巻きを前に完全に萎縮してしまっているザラがだんだんと気の毒に思えてきて、その辺にしといてやれと声をかけたのだった。
「……お前みたいにそそっかしい奴、なかなか見ねえぜ」
気をつけろよ、と最後に一言言い残すと、リヴァイはザラの横をすり抜けて行った。
周りに集まっていた兵士たちが、誰が始めるでもなく一斉にリヴァイに道を開ける。
憧れや畏怖の込められた兵士たちからの眼差しをものともせず、肩で風を切るように歩いていくリヴァイの背中を、ザラは黙って見送った。
にこにこ笑ったまま、というか、元来そういう性分の人間なのだろうハンジもにこやかにその場をあとにした。
知らず知らずのうちに強張っていた肩から力が抜け、ザラは大きなため息をついた。
思わずペトラが眼を背けそうになるほどの悲惨さである。
ギャラリー達からの視線が痛い。
トレーを持ち直すと、二人は足早に食堂を後にした。
「面白そうな子だねー、リヴァイ。私の隊で本当にいいの?君の近くに置いた方がいいんじゃなあい?」
「さっきからごちゃごちゃとうるせえな。おまえの分隊送りはエルヴィンの意向だ。あいつには、せいぜい奇行種分隊長の元で強くなってもらう」
「奇行種分隊長って、それもしかして私のこと?」
「もしかしなくても、てめえのことだ」
ザラとペトラの去ったあとの食堂で、リヴァイとハンジの二人は、隣に座り食事をとった。
「でも、いい子そうじゃないのさ。ああいう子は私好きだなあ、大歓迎だよ」
「ハッ、年端のいかねえガキが兵服に着られてるみてえで笑っちまうな」
「……リヴァイ……。君はどうしてそうも、嫌味なやつなんだ……」
その嫌味な物言いが、ザラのことを嫌っているからではなく、もともとのリヴァイの性分だということをハンジは知っている。
が、時として信じられないほどに相手を傷つけるようなことを言ってのけてしまうリヴァイである。
その都度ハンジはやんわりとたしなめるようにしていたが、それで本当にリヴァイの性格が変わるとは微塵も思っていないハンジであった。
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