第2章 第一印象は最悪
次の日の明け方。
リヴァイはふと、自室の窓から外の景色を眺めた。
人々が本格的に活動を始める前の、まだ街全体が眠っているような、この時間帯の静寂がリヴァイは好きだった。
目を細め、遠くを眺める。
朝霧が出ていた。
今日も日中は、よく晴れるのだろう。
寝巻きの肩に薄手のカーディガンをかけ、リヴァイは長いこと、窓の外の朝陽の移ろいにぼんやりとしていた。
兵舎から出てきた人物に気を留めたのは、随分と経ってからのことである。
まだ早い時間帯だというのに、しっかりと兵服を着込み、ベルトまで締め、調査兵たちの馬を繋いでいる厩舎へと向かう者の姿があった。
こんな早くに誰だ、と目を凝らす。
ややあって、リヴァイは、あ、と思った。
例の噴水事件の少女───新兵のザラだった。
朝に強いのだろうか、早朝であることを物ともせず、楽しそうな足取りで厩舎入ると、一頭の馬の世話を始めた。
慈しむような眼差しで馬の肌を撫で付け、しばらくの間、馬と心を通わせるように、微笑んだり、馬と自身の額同士をくっつけあったりしていた。
気が済むまで愛馬を可愛がると、やがて彼女はジャケットを脱ぎ、腕まくりをして厩舎全体のボロや寝わらの掃除を始めた。
彼女の白い肌が、遠目からでもよくわかった。
リヴァイは、自室の窓際に頬杖をついて彼女を見守っている。
ぼんやりとしていたリヴァイの脳裏にふと、「奴はどちらだろう」という考えが浮かんだ。
生き伸びる側の人間か、死ぬ側の人間か。
調査兵団の兵士にあるのは、ただそれだけである。
名実ともに、心臓を捧げる。
捧げた心臓が止まるまで戦い、止まったあとは、捧げた心臓がどうなるかを、実体を持たない魂となって見守るのだろう。
調査兵団に入ってどのくらいの年月が経った頃からだろうか、リヴァイには出会ったその人物が、この先長く生き伸びるか否かがおおよそわかるという不思議な直感が宿るようになっていた。
むろん百発百中などという訳ではなかったが、その直感はあらかた当たった。
表情、まとっている雰囲気、瞳の揺れ具合など、注意して見ていると、その人間の覇気のようなものがだんだんとわかるのだった。
ザラはどちらだろう。
リヴァイにも、よくわからなかった。
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