第2章 第一印象は最悪
「……噴水の次は突進か? ザラ、……」
『……ラドフォードです……』
突然のことに、危うくトレーを取り落すところだった。
食器が空になっているとはいえ、落としていたら大惨事になっていたことだろう。
「そうだ、ザラ・ラドフォード。昨日は、ご苦労だったな?」
嘲るような口調でリヴァイが言う。
あからさまな嫌味にザラは思わず言葉に詰まり、小さく「その節は……」とだけ呟いた。
「噴水……。あーっ!この子が例の!?」
重苦しい空気に思わぬ助け船を出したのは、調査兵団が誇る歴戦の猛者であるハンジ・ゾエだった。
メガネをかけた中性的な見た目であるハンジは、ザラが所属することに決まった分隊の隊長でもある。
所属部隊こそ発表されたものの、実際の顔合わせは明日に予定されていた。
自分の分隊に所属の決まった新兵にひと足先に会うことができて素直に嬉しいのだろう、ハンジは嬉々として身を乗り出した。
「そっかー!リヴァイを噴水へ投げ倒した新兵がいるなんていうもんだから、誰のことかと興味津々だったんだよね!まさかザラのことだったなんて」
『うっ……』
いよいよザラは下唇を噛み締めた。
隣で、ペトラが口を挟んだ方がいいものかとおろおろしている。
「すごいよ!すごい!リヴァイを噴水へ投げ倒しただなんて、感動しちゃったよ!今年の新兵は大収穫だなあー!先が楽しみだよ、ザラ」
ハンジがにっこり笑う。
ぎこちなく苦笑いを返したものの、噴水へ"突き飛ばした"が、いつのまにか噴水へ"投げ倒した"に変化していることに、ザラは半ば愕然とした気持ちになった。
噂話というのは、こうして人を介するたびに尾ひればかりが大きくなっていくのだろうな……という心境である。
現に、やれなんの騒ぎだと遠巻きから見物していた調査兵たちの方から、「兵長を、投げ倒した……!?」と驚愕の声が聞こえてくる。
一刻も早くこの場から尻尾を巻いて逃げたいと思うザラであるが、到底立ち去れる雰囲気ではない。
するとそこへ、堪り兼ねたようにようやくリヴァイが口を挟んだ。
「……その辺にしといてやれ、ハンジ」
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