第5章 隣の温もり
「減らねえ口だな。さっきまでのしおらしいお前はどこへ行ったんだ」
『いえ、なんだか、だんだん楽しくなってきました。久しぶりに笑った気がします』
「しおらしい方が可愛かったがな」
『あ!言いましたね!?』
怒ったように口を膨らませてザラがリヴァイへ詰め寄る。
リヴァイは小さく笑って、ザラの額を指でパチンと弾いた。
「冗談だ。てめえは、辛気臭え顔してるよりも、笑ってる方が、ずっといい」
にこにこ楽しそうに笑うザラを可愛く思う。
一瞬、地獄にいることを忘れる。
このまま、出来ることならば一生、理不尽に傷付けられたりすることなく、幸せであって欲しいと願う。
(…だが、ここは地獄で、俺たちは、兵士だ)
山積みになった死体を前に、明日は我が身かと思う日々だ。
死が頭をちらついて離れない。
明日は、明後日は、半年先は、一年先は───
そんな風に思わずには居られない。
笑っていて欲しい。
出来ることなら、この先、ずっと。
そうはいかないことを誰よりもわかっているリヴァイだからこそ、願わずにはいられないのだった。
「もう…行け」
リヴァイが言うや否や、ほとんどぶつかるようにして、ザラがリヴァイの胴に抱きついた。
『…離れがたいです』
ぽつりとザラが言った。
リヴァイも同じ気持ちだった。
一晩身を寄せ合っていたからであろう、互いの温もりが遠ざかることが寂しく感じた。
「…夢の内容も忘れるほど、深く寝入ったのは、久々だった」
リヴァイが言うと、ザラは顔を上げてリヴァイを見た。
「寝るといえば、大抵椅子に座ったまま仮眠とってお終いだ。それが昨日は、いつもの不眠が嘘みてえに眠れたよ。…安心したのは、俺も同じだ。お前が傍にいると、安心する」
リヴァイはザラの肩に手を置いてそっと身を離すと、慈しむようにザラの目をじっと見つめた。
互いの視線が絡み合う。
二人の間を、男女特有の張り詰めた空気が漂った。
互いの心を探り合うような、無言の攻防が続く。
先に動いたのは、リヴァイの方だった。
ゆっくりと引き寄せられるように顔を寄せると、静かにザラに口付けた。
ザラは目を閉じて、それを受け入れた。
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