第5章 隣の温もり
アーヴィンのことを思うと胸が痛む。
苦しいし、悲しい。
だが支えてくれる人がいる。
生きよう。
…生きるしか、ないじゃないか。
リヴァイはベッドから起き出しザラの傍へと寄ると、そっとザラの頬を撫でた。
「忘れるな。お前には仲間がいる。ハンジがいて、ペトラがいて、エルヴィンも、同期のやつらもいて、そして…俺がいる」
ザラはリヴァイを見上げ、真剣な瞳で頷いた。
「選択を迫られた時、決断するのはお前自身だ。周りの意見は関係ない。選んだ道が正しかったのか、選ばなかった道の先に何があったのか、それは誰にもわからない。だから、これは完全なる俺のエゴだ。だが今際の際に思い出せ。
……生きろ」
リヴァイの鋭い眼光が、ザラを貫いた。
射すくめられ、ザラは黙ってリヴァイの瞳を見つめていたが、やがて、小さく口を開いた。
その目が、わずかに潤んでいた。
『…兵長、置いていかないで。兵長がいるなら、私きっと、死のうなんて思いません。だから、兵長も生きて。私生きます、兵長のために、生きてみせます。…だから、』
ザラが手を差し出すと、その華奢な手を音もなくリヴァイの手がとった。
『───ひとりに、しないで』
アーヴィンという心の支えを失った今、ザラの心の拠り所はリヴァイへと代わった。
ザラに信頼され、求められ、存在を肯定されている。
その事実が、リヴァイを高揚させた。
ザラに一心に求められているという実感が、じわじわとリヴァイの胸を満たした。
「…誰にものを言ってる」
握ったザラの手をそっと口元に寄せ、リヴァイは微笑んだ。
「俺は人類最強だぞ」
思わず、ザラの顔が綻ぶ。
人類最強などという肩書きに酔ったことはなかったが、今回ばかりは、自分の強さを誇りに思った。
手を離し、ザラの頭をくしゃりと撫でる。
「また辛くなったら、ここへ来い」
『毎日来てもいいですか』
ザラがいたずらっぽい眼をして笑った。
陽気で冗談が好きな彼女の性分がだんだんと戻ってきたようである。
「…ふん、勝手にしろ」
『わあ。兵長って、私に凄く甘いですよね。いつか寝首を掻かれても知りませんよ』
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