第5章 隣の温もり
次の日、部屋の中に差し込んだ日の光に誘われるように、ザラは目を覚ました。
リヴァイの部屋の窓から柔らかな日差しが差し込むのを、ベッドの中からじっとザラは見つめていた。
起き抜けの頭のまま暫くの間そうしていたが、ふと思い立って静かに身を捻り、一晩ザラのことを抱きしめていたリヴァイの顔を見やった。
余程のことがない限りはいつも寄せられている険しい眉間から険がとれて、穏やかな寝顔である。
普段よりも幾分か幼く見えるその寝顔を黙って見つめた後に、ザラは静かにリヴァイの腕から抜け出し、ジャケットだけを肩から羽織ると、ブーツは履かずに裸足のまま部屋の外へと出た。
ぺたぺたと冷たい素足で階段を下り、兵舎の建物の外へと出る。
空を見上げると、澄んだ青空に、陽の光が美しく彩られていた。
ほう、と息を吐く。
不思議な心待ちだった。
昨日まで冷たい水の底に沈んでいた心が嘘のように軽く、体の芯からじわじわと活力が滲んでくるように感じる。
久方ぶりに、明るく前向きな気持ちになった。
生きている。
生きよう、と思わず小さく呟いた。
ザラはぱっと身を翻し兵舎の中へと戻ると、元気よく階段を駆け上がり、足音を忍ばせてリヴァイの部屋へと戻った。
まだ他の兵士は起き出していないようである。
部屋へ戻るとそのままジャケットに袖を通し、ブーツを履き、ベルトは閉めずに手に携えた。
まずは着替え、そして厩舎へ行って掃除をし、ハンジとペトラに明るく挨拶に行こう、礼も言おう、集中して訓練に励もう、食事をし、健全な肉体を保つことを考えよう。
やる気に満ち満ちと溢れていた。
ドアノブに手をかける。
ふと視線を感じ引き寄せられるように振り向くと、ベッドの中からリヴァイが体を起こして、こちらを見つめていた。
「…起きたのか」
静かな声音が響いた。
『…兵長、昨晩は、ありがとうございました。私、もう大丈夫です。今日、何だか凄く、心が軽いんです。体も軽いんです。私、久しぶりにこんなに明るい気持ちになって…』
ザラは顔を上げて、にっこりと笑った。
『早く、ペトラに会いたいです。会って、もう大丈夫って、伝えたい』
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