第5章 隣の温もり
「いつだったかお前の手の冷たさに驚いた時があったが、足先もいつもこんなに冷えてんのか」
氷のように冷たいザラの足先を温めようと、リヴァイは自身の足先をザラのものに絡めた。
ベッドの中で向き合うようにして横たわっているので、互いの顔がすぐ近くにあり、ザラは思わず緊張を滲ませて身を強張らせた。
『いつも、そうです。でももう慣れました』
「慣れていいもんじゃねえ。出来るだけ体は冷やすな。冷えていいことなんて一つもない」
『はい…気をつけます』
冷たかったベッドが、だんだんと二人の体温で温まっていく。
「ザラ、向こうを向け」
『? はい、』
リヴァイに言われ、ザラは言われた通りに、向き合っていた姿勢から身をよじって、リヴァイに背を向ける形になった。
すると後ろからリヴァイの手が伸び、ザラの体を包み込むようにしてぐいと身を引き寄せられた。
突然のことに、腕の中でザラが息を詰まらせたのがリヴァイにもわかった。
そのままリヴァイは何も言わない。
どうやら、この姿勢のまま寝ろということらしかった。
胸がどきどきと早鐘を打っているのが自分でもわかり、この分だと、リヴァイにもきっと伝わっているだろうとザラは恥ずかしさで耳まで真っ赤になりながら縮こまった。
ザラの華奢な体は、リヴァイの腕によく馴染んだ。
腕のなかに収まる体が心地よく、リヴァイは互いの熱にのまれていった。
あたたかい、と思った。
ザラ、と小さく名を呼ぶと、腕の中から、小さく返事が返ってくる。
「…もう、さみしかねえか」
兵舎の前で見た、寂しげに揺れるザラの瞳が脳裏から離れなかった。
彼女の心にはびこる寂寥を、どうにかして取り除きたいと思ったのだった。
『…は、い。寂しく、ありません』
「…ん。なら、いい」
普段、兵士を叱責する時などからは考えつかないほどの優しい声音でリヴァイが言うので、ザラは思わずどきまぎしながら答えた。
静寂のなかに、互いのかすかな息遣いだけが聞こえていた。
始めは強張っていたザラの体も、徐々に緩み、抱きしめられる心地よさのなかに沈んでいく。
眠りに誘われる直前に、リヴァイが小さく、おやすみと呟いた。
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