第5章 隣の温もり
二人はそのまま厩舎の壁に背中をもたれ、暫くの間、黙って身を寄せていた。
静かな夜だった。
厩舎の中を夜気が吹きすぎザラが寒そうに身を揺らすと、リヴァイはすぐにそれに気が付き、やはり黙って、ザラの肩に回した腕に力を込めて、強くザラの体を引き寄せるのだった。
自分から傍に居て欲しいと懇願したはいいが、いざそうなると、リヴァイの心中が気になるザラであった。
リヴァイが何を思い、こんなにも親切にしてくれるのか、ザラには到底理解できなかった。
ただわかるのは、リヴァイに相当な心配をかけたということである。
これから先、どうにか形にして、この恩をリヴァイへと返していきたいとザラは心に強く思った。
身を引き寄せられてはじめこそ緊張に体を強張らせていたザラだが、徐々に、人と体を寄せ合う心地よさに溶かされていった。
安心して目を瞑ることができる。
仮に今何かが起きても、この人が守ってくれるのだという安堵感がいっぱいに胸を満たしてくれた。
それは、つい昨日まで身を置いていた壁外ではとても考えられないことだった。
心地よい安心感に身を委ねていたのは、ザラだけではなくリヴァイも同じだった。
こんな風に誰かと身を寄せるのなど、いつぶりだろうとリヴァイは思った。
自分の腕に収まっている小さな存在が、堪らなく愛しく感じられた。
安心してリヴァイに身を任せているのが触れる肌ごしに伝わってくる。
その信頼感がなんとも心地よく、リヴァイの胸にのし掛かった。
「お前の同期の…ペトラという新兵」
ぽつりとリヴァイが呟いた。
「必死になって、お前を探していた。心から身を案じてくれる、いい仲間を持ったな」
ザラの脳裏に、訓練兵の頃からザラに寄り添い、励まし、時には厳しく叱責し、いつも正しい方へと導いてくれるペトラの姿が浮かび上がった。
ありがたいことだ、と思った。
『…なぜこんな私のことを気にかけてくれるのか、自分でもわかりません』
苦笑を浮かべながらザラが言う。
「お前には…人を惹きつける不思議な力がある」
リヴァイの言葉の真意を探ろうと、ザラはリヴァイの肩に預けていた頭をあげ、リヴァイの顔を見上げた。
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