第5章 隣の温もり
「ハンジが…」
『え?』
「クソメガネが、お前のことを心配していた。様子が変だったんで、気になったんだと。随分と前からあちこち走り回って、お前のことを探していたようだ」
『ハンジさんが…』
「なんといったか、お前の同期の…そう、ペトラ・ラルも、一緒に」
言われて、はじめてザラは厩舎の小窓から外を見た。
空には無数の星が輝き、月が空高く昇っている。
辺りの静かさから、もう夜中なのだと瞬時に悟った。
『そっか私、二人に心配を…。あの、兵長も』
躊躇いがちに、ザラは聞いた。
『兵長も、心配してきてくださったんですか?』
「…だと言ったら」
憮然としたリヴァイの物言いに、思わずザラは笑ってしまった。
どこまで不器用で、優しいお人なのだろうと思った。
『…ありがとうございます、兵長』
ふわりとザラが笑った。
人を気遣ったり、顔色を伺うような気弱な笑みではなく、心の底から溢れたような笑みだった。
「…ハンジに伝えてくる」
ザラの笑った顔を見た途端、まるで素手で掴まれたように胸が苦しくなったので、リヴァイは苦し紛れにそう言い残してその場を去ろうとした。
その手を、すかさずザラが握って引き止める。
「…?」
リヴァイが不思議そうに振り返ると、必死な目で、顔を振るザラと視線がぶつかった。
「…どうした」
『あ、の…すみません、おこがましいことは重々、わかってるんですが』
言葉を詰まらせながら、ザラは潤んだ瞳でリヴァイを見つめた。
『傍に…いてくださいませんか。ほんの少しだけで、いいので、お願いします…』
リヴァイは暫しの間押し黙っていたが、やがて静かに立ち上がると、厩舎の壁際まで行って地面に座り込み、ザラの方を見た。
「…傍にこい」
手招きをすると、ザラはゆっくりと立ち上がり、おずおずとリヴァイの隣へと寄って来た。
隣に座ったザラの肩へリヴァイが手を回すと、躊躇いがちにリヴァイの肩へ、ザラの頭が預けられた。
鼓動が早まるのをザラは感じた。
傍にいてくれとは言ったものの、あまりにも近くにいるので心音がリヴァイにまで聞こえてしまうのではないかと気が気でなかった。
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