第5章 隣の温もり
『…どうして』
ぽつりと、言葉が滑り出た。
『…どうして私と、ともに生きて、くれなかったの』
アーヴィンのことをわかっていなかったのは、私も同じではないか?
アーヴィンの何をわかっていたんだろう。
彼の心が、本当に見えていたのだろうか。
唯一無二の、大切な人。
自分が想うのと同じように、少しも変わらぬ同じ形で、アーヴィンも想ってくれているのだと信じきっていた。
『どうして私と生きることを、選んでくれなかったの』
悲しくて、涙がでた。
怒りたいのに、怒りの根底にある悲しさに気付いてしまっている以上、怒ることもできない。
責めたいのに、もう顔を見て、文句を言うこともできないのだ。
軽口を叩いていたかつての日々が、嘘のように思えた。
本当に遠くへ───もう声も、思いも届かない場所へ、行ってしまったのだとはっきりとわかった。
***
「…リヴァイ!ザラを見てないかい」
団長室を出たところで、リヴァイはハンジに呼ばれて立ち止まった。
声の方を振り返ると、焦った様子でハンジが駆け寄ってくる。
リヴァイが小さく、あいつはもう目が覚めたのかと聞くと、ハンジは大きく頷いた。
「もう何時間も前に目が覚めて一度会っているんだけど、それから姿が見当たらないんだよ。もうこんな遅い時間だっていうのに、部屋にも戻ってないっていうんだ」
リヴァイが訝しげに眉を寄せたのと同時に、ハンジを追うようにして、廊下を走ってくる者がいた。
ペトラだった。
「ハンジさん!やっぱりこっちにもいません。最後に浴場から出て行くのを見かけた人がいるだけで、そこからは何とも…」
ペトラはリヴァイの存在に気がつき、慌てて敬礼をした。
「お、お疲れ様です。リヴァイ兵長」
「お前は…」
「新兵のペトラ・ラルです。ザラとは部屋が同室でした」
どこかで見たことのある顔だと思い記憶を辿っていたリヴァイだが、名を名乗られて、この娘がザラとよく行動を共にしていた新兵であることを思い出した。
ああ、と頷きハンジの方を見ると、顎に手をあて、思考を巡らせているようだった。
「そうか…となると、あとは、街の方にでも出て行ったのか…」
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