第5章 隣の温もり
「新兵としての功績ではお前にも劣らないな、リヴァイ。将来の有望な兵士だ。先が楽しみだよ」
書類からようやく顔を上げて、楽しそうにエルヴィンは笑ったが、リヴァイはそっぽを向いて鼻を鳴らした。
「…いくら腕が立とうと、心はまだ幼いガキのそれだ。いくら表面上が傷付いていないように思えても、心はきっとぼろぼろだろう。ケアを怠るとあっという間に崩れるぞ」
「最愛の幼馴染みも失ったことだしな。…お前と、同じように」
リヴァイの片眉がぴくりと上がった。
凄んでエルヴィンを睨みつけると、挑戦的な碧眼と視線がぶつかった。
「…何が言いたい」
「…いや、似たような境遇同士、分かり合えることも多いのではないかと思ってね」
エルヴィンは悪気なく言っているのだろうが、こんな形でファーランとイザベルのことを引き合いに出されるのは面白くなかった。
「彼女は強い。これから、更に腕を磨いていくだろう。もしかするとお前の右腕にだってなれるかもしれない。そして、そんな風に強くなっていくなかで───」
エルヴィンがふと、目を細めた。
「きっと、一人になる。何故なら、強過ぎる者は、死ねないからだ」
リヴァイは黙って聞いていた。
「守りたいものはたくさんあるのに、戦場では、当たり前のように多くのものは守れない。少しずつ少しずつ、手からこぼれ落ちてゆく。だが強いが故に、自分が命を落とすことはない。そうして、孤独になっていく」
リヴァイの脳裏にふと、戦場で一人立ち尽くすザラの姿が浮かんだ。
血に濡れて俯くその様は、あまりに悲しい姿だとリヴァイは思った。
「…お前なら、理解出来るんじゃないか。強者の孤独を。強者の、苦悩を」
こんなものをあいつにも背負わせねばならないのかと、リヴァイは思わず、唇を噛んだ。
明るく、清々しいほどにまっすぐで、人を疑うということを知らなないような人間だ。
そいつが、いつか冷静な瞳で、人の死を素直に受け入れられるようになるのかと思うと、心苦しくてならなかった。
「…皮肉だな」
リヴァイは薄く笑った。
「人を愛するために生まれた来たようなあいつが、どうしてそこまでの力を持っているんだろうな」
ザラの笑顔が脳裏をよぎった。
巨人と対峙した時、あいつはどんな顔で戦ったのだろう。
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