第4章 変わりゆく関係、別れ
アーヴィンの遺体に縋り付いてひとしきり泣いた後、暫くして、ザラは静かに顔を上げた。
アーヴィンの寝顔を、最後に目に焼き付けようと思った。
穏やかな寝顔。
顔の半分を失ってしまってはいるものの、アーヴィンは穏やかに、ただ眠っているようだった。
ザラは、涙で濡れた顔で、小さく微笑んだ。
『アーヴィン、またね』
別れの言葉を呟いて、ザラはアーヴィンの冷たい唇へ口付けた。
柔らかさを失った硬い唇に涙が溢れかけたが、何とか押し留めた。
唇を噛みしめてザラは立ち上がり、その場をあとにした。
強く足を踏み出す。
ザラはもう、後ろを振り返らなかった。
兵舎への道で、ザラは何度も泣きそうになった。
そのたびに上を見上げたり、唇を噛みしめたりしては、必死に涙を堪えた。
大丈夫、と心のなかで何度も唱えた。
思い出した時、アーヴィンは必ず、私の心の中にいる。
そばにいる。
だから大丈夫。アーヴィンはここにいる。
大丈夫、大丈夫…。
兵舎へとたどり着いた時、兵舎の戸口で、ザラを待つ人物がいた。
扉に寄りかかり腕組みをしていたその人は、ザラの姿が近づくと、小さくザラの名を呼んだ。
───リヴァイだった。
「…別れは済んだか」
小さく、リヴァイが訊く。
アーヴィンの遺体を前に泣く姿を、どこかで見ていたのだろうか。
ザラは涙を溜めた目で、しかし力強く、しっかりと頷いた。
目を伏せていると、リヴァイは腕組みを解いてザラの頭を静かに撫でた。
「…よく、頑張った」
ザラの中で、何かがふつりと切れた気がした。
見開かれた両の目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。
堰を切ったかのように溢れ出した涙を、しかし拭おうとはせず、ザラはまっすぐリヴァイを見つめた。
涙の奥で、瞳は確かな光を宿していた。
『…約束しました。死んでも、そばにいると。私が彼を思い出した時、彼は必ず、私の心の中にいる。魂は共にある。思い出したその時、私は、』
嗚咽混じりにザラは叫んだ。
『必ず彼に会える。だから悲しくなんてない。寂しくなんてない。また会える。だから大丈夫。また、また……』
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