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【リヴァイ】君がため

第4章 変わりゆく関係、別れ



『…あ』


兵士にアーヴィンの名を尋ねようと機会を伺っている間に、ザラはふと、一人の遺体に目が引き寄せられた。
布から覗く手に覚えがあった。


震える足で近付き、膝を折って、その場へと座った。
恐る恐る手を伸ばし、冷たい手を握ってみる。


似ている手などごまんとあるだろうと思ったが、握ってみて、確信した。


紛れもない、アーヴィンの手だった。


鼓動が早鐘を打つ。
顔から血の気が引いていくのがよくわかった。
はっはと喘ぐ自分の声が遠くに聞こえる。


ザラは半ば操られるようにして、アーヴィンの顔に巻かれていた布を丁寧に剥ぎ取った。


布から懐かしい顔の半分が露わになったところで、ザラはわっと泣き出しそうになったが、ふとどこかに違和感を覚えた。

顔をまじまじと眺め、震える手で残りの半分の布を開くと、本来そこにあるはずの顔の半分がそこにはなかった。


ひっ、と声をあげて後退ろうと思ったのに、その声すら出なかった。

アーヴィンの顔は、残りの半分をどこで失ったのか、半分しか残っていなかった。


ザラはしばしの間、茫然とアーヴィンの顔を見つめていた。
青白い顔に目は閉じられ、千切れた顔の断面からは痛々しく中の器官が覗いている。


ザラは不意に、拾わなきゃ、と呟いた。


『拾ってこなきゃ、早く拾って、またここへ……』



───何を?





ああそうか、とようやく理解した。


アーヴィンは、死んだのだ。

顔の半分を拾ってきてくっつけたところで、彼は生き返りやしないのだ。



『ああ…そっか。アーヴィン。アーヴィン…』


ザラの眼に涙があふれた。


『アーヴィン、死んだの。あなた、死んじゃったの…』


堪えきれず、ザラはアーヴィンの胴へと額をつけて、声を殺して泣いた。


『怖かったでしょ、痛かったでしょう。でも、もう辛くないよね。もう、あなたを苦しめるものは、何もないのよね?これで、穏やかに眠れるのよね。あなたの魂は、これから自由に、どこへでも行けるのよね。故郷の草原を走り回って、夕日を眺めて、そうして、時々、』


ザラの脳裏に、優しく笑うアーヴィンの姿が蘇った。



『私のところへ、帰ってきてね…』


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