第4章 変わりゆく関係、別れ
壁内へと戻り兵舎へ帰還すると、兵士たちは疲れ切った様子で馬の世話や備品の管理、生存者の確認や、遺体の確認を始めた。
ザラの班からも死者が出た。
よく見知った人が死んだと知り、ザラはぼんやりと、最後に交わした言葉は何だったろうなどと考えた。
「…ザラ」
連絡事項が済み兵士達が解散した後も、心ここにあらずといった様子でその場に立ち尽くしているザラを見かねて、ハンジが声をかけた。
呼んでから肩を揺さぶると、辺りを彷徨っていた視線が、ようやくハンジの方を向いた。
『…ハンジ分隊長』
ハンジの姿を認識し、目が大きく見開かれる。
精神の場所が、安定していないらしかった。
仕方のないことだとハンジは思った。
誰でも、初めての壁外調査のあとはこうなる。
「ザラ、疲れただろう。今日はもうゆっくりお休み。明日また報告を聞かせてくれ」
ハンジが優しくザラの肩を撫でて労ると、ザラは小さく頷いた。
『あの…ハンジ分隊長』
「うん?」
『壁外調査での死者は、どこで確認出来るんでしょうか』
ザラの問いに一瞬、ハンジの動きが止まった。
静かに息を吐き、布で包まれた死体の山と、確認にあたっている兵士たちのいる場所を指差す。
「…きっとあそこで、死者の名簿を作成している筈だ」
ハンジが言うと、ザラは小さく会釈をして、その場を去った。
ハンジは、ザラがアーヴィンの生存確認をしに行くのだろうとすぐにわかった。
否、生存確認ではなく、死亡確認だったかもしれない。
ザラはアーヴィンがもうこの世には居ないと、心の中で薄々わかっているようだった。
心が通じ合う者同士にもなるとそんな風に、虫の知らせで相手の状況がわかることがある。
ザラにもきっと察する何かがあったのだろうとハンジは思った。
慰めてやりたいが、こればかりは気の利いた言葉など浮かびやしない。
ハンジは黙って、ザラの背中を見送った。
遺体の確認作業にあたっている兵士たちは、忙しそうに動き回っていた。
綺麗に体の形が残っている者、肉片だけになった者、身につけていた兵服、外套、ネックレスやブレスレットなどの遺品の仕分けなど、作業は多岐に渡るようだった。
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