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【リヴァイ】君がため

第4章 変わりゆく関係、別れ



ザラはその日あったことを、よく覚えていない。


その日見た惨状は記憶として自身の中に存在している気はするのだが、思い出すことを自らが禁じているような感覚があった。

その為か、思い出そうとしても時系列が曖昧であったり、現実と幻想とが入り乱れて混在していたりした。


はっきりと覚えているのは出立前、馬に乗ってすれ違った幼馴染みの姿である。
すれ違い様、穏やかな笑みを浮かべた幼馴染みは、そのまま何も言わなかった。

その穏やか過ぎる笑みが唐突に不安になって、ザラは咄嗟に叫んだのであった。


生きてよ、と。


幼馴染みは頷きもせず、また、首を振りもしなかった。
ただ慈しむようにザラを見つめ、それきりだった。


それが、ザラが見た、アーヴィンの最後の姿だった。



長距離索敵陣形の次列伝達班として、ザラは初陣である壁外調査に参加した。

エルヴィン団長の掛け声のもと、威勢よく壁外へと繰り出して行ったことは記憶している。
曖昧なのは、その後からだった。


怒号、悲鳴、木々のざわめき、地面の揺れる感覚、巨人の足音、ガスの噴射音、馬のいななき、ブレードの折れる音───


そういった音の一つ一つが、耳に蘇っては遠く引いていく。


無我夢中でザラは空を飛んだ。
巨人の肉を裂き、頭から血を浴び、咆哮をあげ、激昂した。


何人もの人が死んだ。
ついさっきまで意思を持って動いていた人が、肉片となる様を何度も見た。
あの人たちの魂はどこへ行くのだろうと、茫然と思った。




気が付いた時、ザラは壁内へと帰る道中にいた。

馬に乗って、歩いていた。
覇気を失った者たちがぞろぞろと進む中に、ザラもいたのだった。


ぼんやりと列を成して歩く人々を見つめながら、ここはどこだろうと思った。


調査は、巨人は、仲間は───どうなったのだろう。


引き寄せられるようにして空を見上げると、太陽が西の空へと沈む頃だった。
朝、リヴァイと太陽を眺めたことを、遠い昔のように思い出した。


夕日を見つめたまま、目を閉じる。
閉じたまぶたを透かして、太陽の光が感じられた。

ザラのまつ毛が、細かく震えた。
涙が溢れ、頬を伝った。



───生きている。


そう、思った。


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