第4章 変わりゆく関係、別れ
リヴァイは笑った。
いつになく真剣なザラの言葉が、まっすぐ胸に届いたようだった。
ザラの想いに応えるように強く手を握り返すと、小さく言った。
「…ならば、帰ってこい」
重なった二人の視線は離れない。
「そう思うのなら、またここへ帰ってこい。お前は優秀な兵士だ。そして、大切な部下だ。お前に教えてやりたいことも、したい話も、まだまだある。…だから、帰ってこい」
不意に目頭が熱くなり、ザラの目にと涙が浮かんだ。
約束できないと、アーヴィンは言った。
明日に保証はない。
約束など、出来はしない、無意味なものであると。
ザラもそう思っていた。
口では約束してと言いながら、約束など、無意味なものであると心では思っていた。
だが、本当はどうだろう。
たとえ果たされず敗れたとしても、その約束を誓った心は本物だ。
想いだけは、真実だ。
ぽっかりと空いた心の空洞に、ただ一つ、交わした約束という拠り所があるだけで、こんなにも強い気持ちになれる。
生きようと思える。
死ねない。まだ、死にたくない。
死など受け入れてなるものか。
生きたい。
生きてまた、この人とここで会いたい。
『…約束、してください』
ザラの頬に、ぽろぽろと涙が溢れた。
『必ず帰ってくるって。ここでまた、私と会うって』
流れる涙をそのままに、ザラは希望に縋るような思いでリヴァイを見つめた。
「…お前がそれで、強くなれるなら」
リヴァイが頷くと、ザラは泣いたまま、小さく笑った。
抗えないものだと思っていた。
兵士になった以上、戦場に骨を埋めることは避けられないことだと。
諦めることが、生への執着を捨てることこそが、死への恐怖を和らげる最大の薬だと思っていた。
だが違う。
心がこんなにも叫んでいる。
諦めたくなどない。
死にたいなど、微塵も思わない。
(…アーヴィン)
ザラは思わず、胸中で幼馴染みの名を呼んだ。
いつしかの、アーヴィンの不安気な表情が頭をよぎった。
今世での約束を避けたアーヴィンは、死後の話だけをしたのだった。
死後の約束を支えに戦うなど、あまりにも、悲し過ぎるじゃないか。
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