第4章 変わりゆく関係、別れ
「…いつ、別れが訪れるか、わからないんだ。本当に」
アーヴィンは静かにザラの手を握った。
ひやりと冷たいザラの手がふと死人の手を連想させ、アーヴィンは縁起でもないと首を振った。
「言うだろ、死人に口なしって。…どんなに思っていたって、死んだら最後、もう、伝えられない。…だから、思っていることは、生きているうちにちゃんと相手に伝えておかなきゃならない」
ザラは黙って頷いた。
「ザラ。…お前が好きだ。故郷にいた頃からずっと。だから、覚えていてくれ。お前をずっと想っている。お前が思い出した時、俺は確かに、お前の心のなかに居る。そうして、また、いつでも会える」
いつになく弱気なアーヴィンの様子に、ザラの胸を一抹の不安がよぎった。
アーヴィンがこのまま、自分の手をすり抜けてどこか遠くへと行ってしまう気がした。
『…やだ、アーヴィン。それじゃまるで、死んじゃうみたいよ。ね、言ってよ。約束して』
ザラはかたく握られていたアーヴィンの手を解くと、ほとんど縋るようにしてアーヴィンの胴に抱きついた。
『置いてかないって、絶対死なないって……ね、約束して』
アーヴィンは小さく笑うと、俯いてかぶりを振った。
「…約束、できない」
『…やだ』
「わかってくれ、ザラ。巨人との戦いが終わるまで、向こう何年かかるか…その間、二人とも無事に、生き残り続けられる保証なんて、どこにもないんだ。優秀な兵士が、今まで何人死んだと思う。この平和を守るために、何人の人がその礎となった?」
幼子をあやすように、アーヴィンがザラの背中を優しく叩いた。
言われなくとも、ザラにもわかっていた。
自分たちが今、どんな世界に生きているのか。
約束なんてものが、いかに陳腐で、役に立たないものなのかも。
それでも、とザラは唇を噛み締めた。
愛する人の口から、未来への諦めなど聞きたくなかった。
(私たちは……)
どうして、兵士であることを選んでしまったのだろう、とザラは思った。
アーヴィンの温もりを感じたまま、固く目を瞑る。
今はもう遠くなってしまったかつての故郷の風景を、ザラは必死に思い起こした。
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