第4章 変わりゆく関係、別れ
ずっとなんて望まない。
たった一日、一日だけでいいから、アーヴィンと二人で、あの場所へ戻れたら、とザラは願う。
むろん、叶わぬ願いだった。
だがいつまでも、くだらない願いが頭を去らない。
「……好きだよ、ザラ。それだけを、忘れてくれるな。今生の別れが来ようと…またいつか、どこかで会えるさ」
『……思い出した時、あなたに会えるの?』
目を閉じたまま、アーヴィンの穏やかな声を聞いていたザラが、確かめるように小さく尋ねた。
「ああ…きっと」
『思い出した時、きっと現れてくれるのね。心の中で、また会えるのね』
「ああ、きっと」
閉じたままのザラの目から、すうっと涙が、すじを成して頬を伝っていった。
ザラは茫然と、死ぬなら今がいい、と思った。
けれど、死ねない。
そんなことは、できない。
なぜなら私たちは兵士で、巨人と戦うという命がある。
ザラはゆっくりと眼を開いた。
この日を、けして忘れまいと固く誓った。
この先何が起ころうと、どちらかが先に死のうと、今日を支えに生きていこうと強く思った。
今日の記憶が───アーヴィンの言葉があれば、どれだけ悲しくとも、きっと生きていけると思った。
『…アーヴィン、私頑張るから。私、きっと最後まで勇敢に戦うから、だから、……天国でまた会えたら、いっぱい褒めてちょうだいね』
震える声で、ザラが言った。
『…約束よ』
言葉を返す代わりに、強い力でアーヴィンはザラを抱き締めた。
どうしてこいつを、戦地へ送り出さねばならないのだろうと本気で思った。
まだ若く、幼く、健気で、人を愛することしか知らないこいつが、どうして、あの無残で悲しい、残酷な場所へ赴かなくてはならないのだろう。
心のなかに、黒々としたわだかまりが、墨をこぼしたように広がっていく。
アーヴィンは不意に、叫び出したい衝動に駆られた。
胸中に渦巻く思いを、すべて綺麗に吐き出したかった。
考えれば考えるほど、気が狂いそうになる。
それほど死への恐怖に取り憑かれている。
死んでも忘れないでくれ。
そんなことを言葉にして伝えなくては、正気を保てないほどに心が悲鳴をあげている。
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