第4章 変わりゆく関係、別れ
『それでね、凄いんだよ、私の制止になんかてんで目もくれなかったのに、兵長の前へ躍り出た途端、すうっと怒りが収まったみたいに暴れるのをやめたの』
とある日の夜、アーヴィンとザラは兵舎の前で密かに落ち合っていた。
兵舎の前や広場の噴水、人気のなくなった食堂など日によって場所はまちまちであったが、一週間に数回の頻度で、二人は隠れて会っては互いの近況報告をしあったり、他愛もない雑談に花を咲かせたりした。
隊が違っては、同じ兵団に勤めていてもほとんど顔を合わすことはないのであった。
『馬も人の威厳がわかるものなのかな。でもやっぱりそれほど高尚で偉大なお方だって、馬にも伝わったのよね。凄いよねえ』
ザラは先ほどから、しきりにリヴァイの名前を話に出しては、凄い凄いと褒めちぎっていた。
何でも、暴れ馬が兵士たちが制止するのも見事に振り切り暴走していたところ、リヴァイが馬の前へ立ちはだかっただけで暴走を止めたというのである。
にわかには信じがたい話であるが、相手があのリヴァイ兵長なら頷けるとアーヴィンも納得した。
『リヴァイ兵長って、本当に凄いお方なの。こないだね、初めて兵長の立体機動を見せていただいたんだけど、私もう感動しちゃって感動しちゃって…涙が出るかと思ったね!』
ザラの話にリヴァイの名前があがるようになったのは、ここ数週間のことだった。
入団した直後から何かとリヴァイとはトラブルがあったようだったが、最近ではわかりやすく懐き慕っているらしい。
嬉しそうにリヴァイの話をする好いた相手に、アーヴィンがつまらなそうな顔をするのも、仕方のないことであった。
「…また今日も兵長の話か。最近お前はそればっかりだな」
『ええ?そんなこともないと思うけど。でも、アーヴィンだってわかるでしょ、兵長の凄さ』
「そりゃわかるさ。同じ兵団に属してるんだからな」
『自由の翼って、リヴァイ兵長にこそぴったりな言葉だって私思うなあ。あの人が空を飛んでる時、そんな風にふと思ったの』
恍惚とした表情を浮かべながらザラは呟いた。
その脳裏にはきっと、ザラに立体機動を見せた時のリヴァイの姿が浮かんでいるのだろう。
「…相当な惚れ込みようだな。そんなに好きか、兵長のことが」
アーヴィンの声音がつい低くなる。
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