第4章 変わりゆく関係、別れ
俯いたリヴァイが、執務室の扉に手をかけた時だった。
不意に腕を強い力で引かれ、リヴァイは立ち止まった。
訓練場からここまで止まらずに走ってきたのだろうか。
後ろを振り向くと、リヴァイの腕を掴んだまま、肩で大きく息をするザラがいた。
「……」
なんと声をかければいいのか、リヴァイにはわからなかった。
これ以上深く関わるのはやめようと思った矢先に、突然彼女の方から、ほとんどぶつかるようにしてリヴァイに近づいて来た。
ザラは下を向いたまま何も言わない。
リヴァイはザラの心内が読めず、訝しげに、背けられたザラの顔色を伺った。
「…ザラ」
名前で呼ぶと、僅かにザラの肩が動いた。
「…何をしにきた」
聞かれて、ザラは思わず、自分自身を不思議に思った。
リヴァイが訓練場を去ったあと、暫くの間その場へ立ち尽くしていたが、このままではいけないと唐突に思った。
立体機動装置をその場へ投げ捨て、他の新兵が何事かと止めるのも聞かず、リヴァイを追いかけて、ここまで来た。
一体、何をしに来たのだろう。
ザラにもよく、わからなかった。
『…わ…私今日、兵長を、避けてしまって』
「…ああ」
『でも、兵長が嫌になったとか、そんなことでは全くなく、兵長に……、兵長には、本当に、何の問題もなくって』
言葉を連ねれば連なるほど、自分の気持ちが嘘くさくなってしまう気がした。
『自分自身の問題なんです。でも、もう大丈夫です。今からは今まで通り兵長と、接することができます』
「お前…」
リヴァイが静かに言う。
「俺に触れられたのが、嫌なんじゃなかったのか」
『えっ』
唐突に伏せていた顔を上げたザラは、驚いた顔をしていた。
互いの目が、すぐ近くで揺れていた。
『ちが…、違います。わたし、兵長に触れられるの、嫌だなんてけっして、』
あまりにも意外なことをリヴァイが口走ったので、ザラはしどろもどろになって答えた。
何故リヴァイがそんな考えへと至ったのかその経緯はわからないが、とにかく今は、あらぬ誤解を解くのが最優先だとザラは思った。
『私、嫌じゃありません。兵長に触れられるの、嫌じゃありません』
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